劇場公開日 2025年9月5日

「記憶とは何かについて深く考えさせられる」遠い山なみの光 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 記憶とは何かについて深く考えさせられる

2025年9月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

記憶とは何だろうか。初老の女性の述懐がベースとなる物語だが、彼女が語るのは何十年も前の昔話であり、なおかつ場所も日本と英国とで随分と遠い。遠い山並みの光とはまるで、そうやって時間と空間を隔てたところから望む、おぼろげな追想の日々のよう。冒頭、長崎の劇的な復興を記録した写真が、まさかの楽曲に乗せて勢いよく駆け抜ける。この新鮮な風を感じつつ、ネオンや看板が放つ鮮やかな色彩に満ちた街並みにも心奪われるひととき。あらゆるものが変容する。そういった過程の中に浮かび上がる「二人の女性」は一体何を意味するのか。かくも記憶という題材は、長崎生まれで英国暮らしの長いイシグロ氏にとって、常に、そしていつまでもリアリティを放ち続けるものに違いない。私には小説と映画とではやや印象が違って見えたが、その印象の違いもまた本作の狙いのような気がする。女優たちの研ぎ澄まされた表現力、石川監督の人間描写が際立つ一作である。

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牛津厚信
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