「1シーン、ひと言で見方が一変しました。(大幅に修正しました。)」遠い山なみの光 かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
1シーン、ひと言で見方が一変しました。(大幅に修正しました。)
広瀬すずの悦子と二階堂ふみの佐智子が同一人物だろうというのは、割に早い段階で想像がつく。ふたりには共通点が多いのだ。
悦子のお腹の子が万里子だとして、幼い万里子を連れた佐智子は、悦子の少し未来の姿なんだろう。
被爆したことがバレて、夫に離縁されたのか。
悦子はかつて教師で英語もできる。男尊女卑の夫に隷属しない、自分の人生を歩みたいと願って自分から離婚したのかもしれないが、真相は不明。
「川向う」の不気味な立ち入り禁止区域は、いまだ解除されない原爆の汚染地帯なのだろう。記憶に新しい福島の立ち入り禁止区域を連想する。
張られた綱の先は、悦子の記憶の立ち入り禁止区域でもあるのだろう。
ニキに聞かれなければそのまま封印して立ち入ることもなかった禁断の領域。
万里子は景子なのか?
二人だけで他に誰もいない立ち入り禁止区域の夜の川べりで、「それ、何?」と聞く万里子に「ただの草の蔓よ」とほほ笑む悦子。表情と声色がものすごく不気味でぞっとした。
悦子は邪魔な万里子を〇したのではないか。
「黒い女」は悦子自身だろう。「黒い女」が赤ん坊を水につけているというのは、悦子が過去に、子殺しをしたメタファーのように思える。万里子が川向うの黒い女に怯えるのも道理だ。
悦子も佐智子もファッショナブルな装いなのに、万里子はいつも粗末な同じものを着ていて、ネグレクトされているように見えるし。
渡米するとは話だけで実際に行ったかどうかは分からない。
ニキの父親とどういういきさつで結婚したのかも分からない。悦子が持っていた写真の景子は万里子の姿だったが、実際の万里子がどんな子だったのかは分からないので、渡米話から渡英までの間に悦子はもう一人「夫」を持つことがあって、景子はその時に授かった子どもかもとも思ったが、うどん屋で悦子は万里子を景子と呼んでいたと、あるレビューアーさんのご指摘あり、万里子=景子で確定のようだ。
それで、見方が一変しました。
それならあの「やっちまった」ような描写は、嫌がる景子を自分の勝手な事情でイギリスに連れていき、ついには自死に追い込んだ、無理に連れて行った時点で、悦子は万里子を〇していたのだ、という悦子の脳内でのイメージだったのだろう。
52歳の悦子は、娘の死に関する罪悪感で苦しんでいるよう。
提供されるピースが少なすぎてジグゾーパズルが埋まらないので、多くの考察が生まれる。
悦子の夫の二郎は、指がないから仕方ないにせよ、妊娠中の妻に跪かせて靴ひもを結ばせていた。妊娠中はあれは厳しいです、妊婦にはとてもツライ姿勢だけど一切考慮なし。予告なく職場の人を連れてきてもてなしを要求する、妊婦の前でタバコを吸う、女は男に跪くものだからそれでよし。被爆したなら子供と共に離縁も当然。いやもう、ふざけんな。日本の男性と社会に絶望して海外に活路を見出す悦子の心情は共感しかない。そしてあの時代にそれを実行したところがスゴイ。
但し、結果的に景子を犠牲にしてしまった。
同じ女性として良かれと思ったのに。
二郎の父・緒方のような戦後失職した教師は多かったと思う。
戦前戦中の教育は良いもの美しいもの、自分の正義を疑わず、何が悪かったかといえば「戦争に負けたこと」だと本気で考えている。軍国教育を叩きこんで若者を戦地に送り込み、社会統制の片棒を担いだことへの罪悪感や悔恨はない模様。息子の友達で元教え子、現職の教師である松田が書いた記事に憤慨してわざわざ九州から抗議に来たのに、逆に松田に返り討ちにあったが、多分考えを変えることはないのだろう。かつての教え子を、教育でもって死地に追い込んだ責任を感じて自分を責めている悦子とは対照的だ。
そもそもあの「緒方」は実在したんだろうか。
悦子の回想なのに、緒方と松田が対決したところに悦子はいなかった。どんなやりとりがあったか、悦子には知る由もない。
このエピソードは、軍国教師一般を「緒方」に集約した、悦子の脳内糾弾だったかも
広瀬すずの若奥さんぶりが大変美しく、凛としていて見惚れてしまった。ファッションも素敵。
こんな奥さんいたら、ダンナは同僚を家に呼んで見せびらかしたくなるよね。
そして広瀬すずと二階堂ふみの、「昭和の若い奥さん」ぶりが艶やかな競演で、雰囲気があって良かった。
団地の室内や窓から見える風景、川向うの、人が立ち入らない不気味な植物天国、打ち捨てられた小舟など、美しさと不気味さを浮き立たせる撮影が見事でした。
原作は未読ですが、読んだらまた違う解釈になりそう。
カズオ・イシグロは、「私を離さないで」が大変ショッキングで辛かったですが魅かれるものがあります。
追記)
被爆した女性、これがあの時代の日本で最も過酷な条件で生きざるを得なかった人たちだったのだと思いました。生き延びるために、想像を絶することもあって、嘘をついたり記憶を改ざんしたりして自分を守らざるを得なかったのだろう。
悦子は保守的なイギリスではなく、アメリカに行きたかったのでは。
そして、娘の死に罪悪感を抱いてはいるが、日本を捨てたことに後悔はしていないと思う。後悔していない自分に、さらなる罪悪感があるかもしれないが。
ニキは母の苦しみを知り、女性として理解を寄せたよう。新たな母娘関係が築かれていくであろう未来が見えました。
ニキの不倫、母に相談しては。
こんにちは^ ^
レビューにイイネ有難う御座います♬
記憶の改ざんか忘れたかった事なのか…
長女の鍵の閉まった部屋にあった木箱を見てから日本を脱出する為に計画していたのだなと思ったら鋼のメンタルになりますねorz
> あの時代の日本で最も過酷な条件で生きざるを得なかったのは被爆した女性だったのだと思いました。
> 生き延びるために、想像を絶する目に遭って、嘘をついたり記憶を改ざんしたりして自分を守らざるを得なかったのでしょう。
>
嘘も記憶の改竄も無意識で行われているんでしょうね。そうでもしないと生き抜くことができない。
> 悦子は保守的なイギリスではなく、アメリカに行きたかったのではないですかね。
きっとそうですね。悦子の分身である佐知子はアメリカの女性そのもの。
かばこさん
コメントを頂き有難うございます。
そうかも知れませんね。
自身の力ではどうにもならない苦しみを一生背負い続けなければならなかった彼女達。そして多くの被爆者、戦争に巻き込まれた数多くの人々全ての皆さん。
今年は戦後80年という事で、8月には数多くの番組( 特にNHK )が放送されていましたが( 未着手の録画が未だ沢山あります。)、その現実のあまりもの過酷さに心が痛みます。
私達は忘れてはいけませんよね。
戦争を仕掛けている国の指揮官である彼らも、是非見ないふり、知らないふりをして貰いたくはないてす。
コメントありがとうございました。
おっしゃる通り、イギリスに渡ったことを後悔していないというのは、その通りだと思います。
今作のニキはカズオ・イシグロさん、悦子はお母様とも読み取れると思いました。
コメントありがとうございました。娘を○ろした説から離れたんですね。川向うは、私は外国(アメリカ)の事かなと思ったのですが、被爆者が除け者にされている事を暗示しているのかもしれないですね。
バラックで佐知子は「今度こそ行く」と言ってましたから、アメリカ行きは失敗して、イギリスに行くことになったんだろうと思います。
ところで、不気味な川べりですが、あのロケ地は地元の印旛沼です。
かばこさんのレビューに激しく同意です!こんなにも鑑賞後にいろいろと考え、それにより余韻が残る映画にはなかなかで会えません。広瀬すずと二階堂ふみの共演はもちろん、どう解釈するかも十人十色だと思うので、鑑賞後に語り合うのも楽しそうな映画ですね。
映画を見終わって、いろいろ考え、多分大筋はこういうことなんだろうな、と想像。
あとから原作の意図というものを読んで、自分の想像と照らし合わせ、なるほどと思ったり、それでも分からない部分が残るな、と思ったり。
でもこれ、映画としては失格だと、個人的には思うんですね。
共感ありがとうございました。
“やっちまった”のレビューが多いけど、すべては悦子の悔恨と自責の念が強すぎることによる妄想ですね。でないとあの明るいラストに繋がらない。ニキが書こうとする物語は罪の告発じゃないはずだから。
共感ありがとうございます。
被爆時の恐怖や目撃した事が薄くなってしまっていたのが、若干不満でした。トラウマに重点を置いたのかもしれませんが、黒い女も自分だったと気付いた時、ニキの存在に少し救われた想いだったのかもしれませんね。
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