「93点☆4.3」遠い山なみの光 映画感想ドリーチャンネルさんの映画レビュー(感想・評価)
93点☆4.3
今作はとても敷居が高く、完全に理解するには原作を読まないと追いつかない点が多く、軽い気持ちで観るような作品ではないことが評価に繋がらないという点で、残念な想いがある。
ノーベル賞作家カズオ・イシグロの長編デビュー作『A Pale View of Hills』を、石川慶監督(『ある男』で日本アカデミー賞作品賞受賞)が映画化。
主演の広瀬すずは、今年すでに三本の主演作をこなし、本作でも繊細な感情の揺らぎを体現。
謎めいた女性を妖艶に演じる二階堂ふみ、老年期の主人公を重厚に演じ切る吉田羊が脇を固める。
舞台は、カズオ・イシグロの出生地でもある原爆の記憶が残る1950年代の長崎と、1980年代のイギリス。
二つの時代を往還しながら、母娘の絆と秘められた嘘を描き出す叙事詩的な物語。
家長制度が色濃く残り、女性が家庭に縛られていた時代。
戦後復興の兆しを見せる長崎で、主人公・悦子(広瀬すず)は謎めいた女性・佐知子(二階堂ふみ)と娘・万里子と出会う。
佐知子は表向きは軽やかで自由だが、その奥には生き抜くための必死の覚悟と、現状を打ち破ろうとする烈しい衝動を秘めている。
その姿に触れることで、悦子は「自分の幸せとは何か」という問いに直面していく。
一方、1980年代のイギリス。
悦子の次女ニキは、姉の死をきっかけに母の過去を探る。
物語は時間軸を行き来し、人物の背景や時代の文脈が複雑に交錯する。
そのため一度の鑑賞では全てを掴みきれないかもしれない。
しかし、その難解さこそが悦子という女性の複雑な生き様を映し出す装置となっている。
石川監督の演出は、単なる「悲しみを隠す嘘」という枠を超え、あの時代を生きた女性たちの孤独と強靭さを鮮烈に描く。
佐知子の正体、悦子の選択、原爆の傷跡が残る街での暮らし、姉との関係、なぜ長崎を離れなければ行けなかったのか、次女ニキが辿り着いた真実とは。
嘘が明るみになり絡み合う瞬間、大きな愛に包まれ優しい風が吹く。
「どうして嘘をつくの?」と問いかける娘ニキ
それは、もう二度と大切な人を失いたくないから。
壮絶な人生を生き抜いた母の、娘を想う偽りの物語の先に、光を見る。
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