劇場公開日 2025年9月5日

「昭和シネマの陰影の裏に隠された真実」遠い山なみの光 ジョーさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 昭和シネマの陰影の裏に隠された真実

2025年9月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

戦争、原爆、差別、偏見の中、もつれた糸のように入り組んだ、一女性の自分史。
イギリスに住む母親が娘にその自分史を初めて語る。だが、その物語はなぜかミステリーじみてくる。
現実と幻想、嘘と真実を超えた時空間が、イギリスと長崎の間を行き交う。
誰にも語ったことがなかった母親の過去。
戦争シーンも原爆シーンも登場しない。なのに、その傷跡が戦後の復興に向かう日本の映像に投影する。
高度成長期に向かう仕事人間の家父長的な夫。戦前の教育は何だったのかという問いに苦悩する義父。米兵との間に娘がいる謎の女性。
母親の過去は、くっきりとした昭和の映像とは対照的に、輪郭が陽炎のようにゆらめいている。
彼女が一体どこに身を置いているのか、一瞬見失ってしまう。
なにが現実でなにが幻想なのだろうか。
だが、ひとたび彼女の娘が、亡き姉の開かずの部屋の扉を開けた時、一気にすべての焦点が合う。
そのあまりの衝撃に予期せぬ涙が頬を伝う。
彼女の辿ってきた運命がどうあろうとも、彼女が長女の部屋とともに封印してきたもうひとつの自分に胸が打ち震える。
昭和シネマの陰影を見事に再現してくれた石川監督、広瀬すず、二階ふみら女優陣の力量に完全に圧倒された。

ジョー
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