「「考察」というより「想像力を膨らませる」という表現が似合う」遠い山なみの光 TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
「考察」というより「想像力を膨らませる」という表現が似合う
今週の1作目はカズオ・イシグロ原作(エグゼクティブプロデューサーも務める)、石川慶監督・脚本という期待のビッグタイトル『遠い山なみの光』。この組み合わせから言って難解な作品であろうことは鑑賞前から予想していましたが、今回も前情報と言えば劇場で数回トレーラーを観ただけ。原作がAudibleで聴けます(課金なし/期間限定)し、U-NEXTで特別プログラム『謎めぐる旅〜映画『遠い山なみの光』を読み解く5つのヒント〜』も配信中ですが、少なくともこのレビューを書き終えるまではお預け。或いは、それらに手を付ければ再び本作を観直したくなること間違いなしであろう、期待を裏切らない良作でした。
舞台は1952年の長崎と、その時代を振り返る1982年のイギリスにおける、悦子(広瀬すず、吉田羊)という女性を中心にして描かれるヒューマンミステリー。日本人監督として、今やこのジャンルの名手と言っても過言ではない石川監督。いわゆる“商業映画”とは一線を画すようなアート性強めな作品性で、しっかりミステリーでありつつもその「謎」に対して、「考察」というより「想像力を膨らませる」という表現が似合う“作家性にあふれる作品”を世に送り出す、まさに当代きっての逸材。なお、今作も撮影は石川監督が映画を学んだポーランド出身のピオトル・ニエミイスキが担当していて、その美しい画から安定の信頼感と二人の相性の良さを感じます。
ちなみに本作、ストーリーとして「語られず、抜け落ちたままのピース」が少なくないため、中盤以降は「これ、終わるのか?」と不安すら感じることも。ですが、(ちゃんと集中して観てさえいれば)多くを語らずとも察しがつくような「いくつかの示唆」に気づき、終盤に至って「まさか」と感じつつ、どこかで「もしかしたら」と既に気づいていたような気もして、観終われば「然もありなん」と説明不要で素直に受け入れられるのです。いやはや恐るべき構成力。そして、久々の帰郷で顔を合わせる次女ニキとのやり取りに始まり、せがまれて「長崎にいた頃」を語るストーリーテラーを担う悦子役・吉田羊さん。ほぼ全般英語のセリフ、そして情感たっぷりな表情など大変に素晴らしい演技でした。
他にも、三浦友和さん、二階堂ふみさん、カミラ・アイコさん等々、名前を上げ始めたらきりがないほど印象に残る演技とシーンばかりなのですが、やはりこの人のことを言わずに終われない、、、緒方悦子役・広瀬すずさんには「堂堂たる存在感」を感じて本当に圧倒されました。ここ最近は、出演する映像作品が次々絶え間なく発表され続けていてその活躍は言わずもがな。ところが、私の好みとはちょっと違う作品ばかりだったため、彼女の作品を観たのは2023年公開の『水は海に向かって流れる』以来。すずさん、大人になったし腕も相当に上げましたな。。今作は賞レースも期待できるレベルの好演だと思います。こりゃ、再来週公開予定の『宝島』も観ないといけないかな。実にあっぱれで参りました。
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