劇場公開日 2025年10月31日

「人生の最後に「感謝」できる幸せ。」てっぺんの向こうにあなたがいる ガバチョさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 人生の最後に「感謝」できる幸せ。

2025年11月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

田部井順子という登山家は誰でも知っている。この映画では「多部さん」となっているが、田部井さんのドキュメンタリーと言うよりは、実話を基にしたフィクションとしてとらえた方がいいのだろう。エベレストや7大陸最高峰を女性で世界初登頂したというような偉大な登山家の面はあまり伝わらない。それより、様々な苦難に会いながらも登山家としての生涯を貫いた田部井順子の生き方そのものに焦点を当てていると感じる。人間ドラマとしてまとまりを出すためにかなり脚色していると思われるため、田部井さんをモデルにした創作ドラマと言っていい。創作ではあるが、それだけ田部井さんに魅力があったからできた物語と言えるだろう。
多部さんの青年期をのんが、老年期を吉永が演じている。話の筋としては、大病を患い残された人生をどう過ごすのかという「人生の仕舞い方」が中心に描かれている。彼女の青年期の生き生きとした輝きを強調することで、老年期の生き方に説得力が出ていると思う。のんが自由で行動的で前向きな魅力的女性を見事に演じていた。自分勝手に生きてきたようでいつも周囲への感謝を忘れず、前人未到の道を切り開きながら山の魅力を発信し続けた。その素直さとバイタリティには尊敬しかない。老年になっても人生をあきらめず、できることを精一杯やる姿は若い頃とつながる。のんと吉永が違和感なく一人の人物として感じられたのはとても良かった。昭和の時代も細部まで作り込まれていて、時代の経過を感じさせた。
この作品は「感謝」の物語である。夫や子供たち家族に対して、良き理解者で親友の悦子、そして共に山に挑んだ仲間たちへの感謝があふれている。タイトルの「あなたがいる」のあなたは、夫の正明のことだろう。青年時代に二人が共感しあった場面がていねいに描かれているので、老年期の淳子の正明への感謝の気持ちもよく分かる気がする。妻のやりたいことを自由にやらせてくれて、全力で応援する夫はそういない。富士山の上での二人の穏やかなひと時は心に沁みる。二人の心は山を介して強くつながっていたことを感じさせてくれた作品でした。

ガバチョ
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