「大谷翔平より(多分)世界的には有名なスーパースター」てっぺんの向こうにあなたがいる シンクンさんの映画レビュー(感想・評価)
大谷翔平より(多分)世界的には有名なスーパースター
封切りから1週間後に地元シネコンで鑑賞
地味目の作品なので予想はしていましたが封切り1週間しか経ってないのにガラガラでした
主人公のモデルとなった田部井淳子さんは地元福島が生んだ世界的スーパースター
なんなら大谷より(多分)世界的には有名な女性初のエベレスト登頂者です
その生涯を描いた作品が地元で不人気ってどういうことよ
と憤りかけましたが冷静になれば仕方ないのかな
私も山を歩き始めるまでは存じ上げなかったわけだし
登頂した当時はビッグニュースだったでしょうが五十年前の話ですし
という私の個人的な憤懣は置いといて映画の内容です
冒頭はエベレスト登頂シーン
その後一気に時は流れ初老の主人公は癌を告知されます
ここから回想シーンが中心
戦友の天海祐希と山で語り合う描写が時々挟まれる形で物語は進んでいき終盤の富士登山でクライマックスを迎えます
私は原作を読んでますし田部井淳子さんの生涯も存じ上げているのでなおさらなのかもしれませんが全体的には起伏の少ないストーリーです
しかしアラフィフを迎えた私には刺さるシーンが多く終始泣きっぱなしでした
そんな多々ある泣き所の中でも私的ハイライトは吉永小百合が歌う「You Raise Me Up」のシーン
娘役の木村文乃が「素人にしてはまあまあ聞けるレベル」と言う通り本家のケルティックウーマンの歌声に比べれば覚束なさは否めません
でも泣けるんだこれが
原作の著書のタイトルにある通り田部井淳子さんの人生観は「人生山あり"時々"谷あり」
作中のエベレストに向かう経過やその後の社会的成功が「山」だとすれば登頂後に様々なものを失う過程や病魔に身体を蝕まれていく姿は「谷」に映ります
生きてく中での様々な起伏は程度の差こそあれ私たちの日々においても変わりはないと言えるでしょう
とはいえ何しろ世界のスーパースター田部井淳子です
そのエネルギッシュな姿勢はやはり「我々凡人とは違うよね」と思いたくなるのも事実
実際作中でも息子役の若葉竜也に似たような葛藤をぶつけられます
ブッ飛んだ描写も時折見られますし当のご本人もそうだったのでしょう
でなければあんな偉業は成し遂げられるはずありません(70リットル位ありそうなデカいザック背負って両腕に買い物袋下げて自宅に帰ってくるのを見て「こんな主婦いねぇよ(笑)やっぱ超人だな」と思いました)
そんな世界のクライマー田部井淳子がスパンコールのドレスに身を包み万感の感謝を込めて歌う姿はどこか滑稽で愛らしく
それでいて病人とは思えないほど力強いのです(ご本人も「病気になっても病人にはならない」と仰ってます)
そして忘れてはならないのが夫である田部井政伸さんを演じた佐藤浩市の名演
福島県民なら周知の事実ですが(願望)この方も若かりし頃は日本トップレベルの名クライマーでした
しかし登山中の凍傷による足の指の切断等の理由で淳子さんのサポート役に廻ります(これは作中の描写なので実際のところはわかりません)
政伸さんの著作も読みましたが凄い方なのに偉ぶることのない素敵なお人柄が滲み出ています
そんな政伸さんのただ者じゃないのに謙虚なナイスガイっぷりを淡々と表現した演技は本当に素晴らしかったです
そんなお二人の絆を象徴するラストシーンも泣けましたが私的号泣シーンはその少し前
淳子さんが被災した東北の高校生を勇気づけようと始めた富士登山
人生最後となる登山の頃には病気は進行し息も絶え絶えです
全盛期の田部井さんなら楽勝で2〜3往復は出来たであろうルートを道半ばで「私はここまで」と登頂を断念
この「私はここまで」がカッコいいのなんのって
山を登るものなら多少の無理は押してもてっぺんを踏みたいものです
それは私のようなへなちょこハイカーでも高名な登山家でも同じでしょう
でもこれ以上は自分の足で降りられないと思ったら潔く諦める
吉永小百合の晴れやかな表情に「ああ登山愛好家(田部井淳子さんはご自身を登山家ではなく登山愛好家と仰っています)はこうありたいな」と思ったらもう泣けて泣けて
私もアラフィフを迎え体力の衰えが目に見えるようになってきました
いつかは登れなくなる日が来ると思うと寂しくなる時があります
でもその時が来たらこんな表情でストックを置きたい
そうなれるように今を懸命に生きるのだと勇気をいただきました
素晴らしい映画です
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