劇場公開日 2025年10月31日

「山と共に生き抜いた女性と家族の物語」てっぺんの向こうにあなたがいる 泣き虫オヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 山と共に生き抜いた女性と家族の物語

2025年11月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

単純

カワイイ

高齢層向けアイドル映画と言える吉永さゆり作品は10代向けアイドル映画同様陳腐なストーリーが多いのだが、脇を支える役者がいつも豪華なのでついつい観てしまう。

【物語】
2010年、71歳になった多部純子(吉永小百合)は夫の正明(佐藤浩市)と訪れた病院でガンの告知と余命3か月の宣告を受ける。

闘病の間にも夫あるいは、1975年に女性だけの登山隊で女性初のエベレスト登頂を目指したときからの旧友悦子(天海祐希)と近郊の山に登り、人生を振り返る。女性登山家のパイオニアとして注目を浴びた純子だったが、そんな彼女に反発する息子・真太郎とのすれ違いや登山仲間との別離などに悩んだ日々も有った。

“余命3か月”を超えて闘病を続ける中、東日本大震災で被災した高校生たちに富士山に登頂を経験させ、精神的再起のきっかけにしてもらうプロジェクトを立ち上げる。正明は純子とすれ違ったままの息子真太郎にプロジェクトへの参加を持ち掛ける。

【感想】
吉永さゆり作品が陳腐になってしまう要因は、吉永さゆり= “お姫様” 的汚れの無いキャラに仕立ててしまうことに加えて実年齢と比べて異常に若い役にしてしまうことにある(多分本人の望みではなくプロデューサーや監督がそうしてしまうと想像)。しかし、今作演じたのは70代の淳子だったので年齢的違和感は無かったこともあり、最近の吉永さゆり作品の中では見応えが有ったと思う。後半何度となく目頭が熱くなった。

突然“偉人”に祀り上げられた人が皆背負うであろう、周囲の人間の嫉妬・やっかみなどから来る思いもよらない批難。それは時に家族にまで及ぶ。本人に特に非が無くとも、相対的に差を付けられてしまった周囲の人間が「同じように頑張ったのに、そんなに差を付けられるのは理不尽」と思ってしまうことも仕方の無いことであるところが厄介。

そんな悩みも乗り越えられたのは夫の正明の支え有ってこそなのだというところに納得。ある意味最近観たばかりの“ローズ家~崖っぷちの夫婦~”のカンパーバッチ演じる夫テオと正明は同じ立ち位置に居たと思う。正明もまた大成功した妻に嫉妬したこともあることが作品中に描かれているが、それでもテオと違い正明はぐっと堪えて純子を支えたのだと思う。それが無かったらエベレスト登頂の成功だけで終わっていたに違いない。いや、その挑戦さえ実現しなかったかも。

息子は常に「“偉人”の子」として世間から見られ苦悩があろうが、息子の真太郎がその呪縛から抜け出して行く姿にも、親目線で涙が溢れた。

東日本大震災の復興支援も、お金ではなく純子ならではプロジェクトを立ち上げて被災児の心の復興支援を家族ぐるみで実行したことにも感動した。

1つだけ残念だったのは、前半の核となるエベレスト登頂のエピソードの中で、登山隊の役割分担が説明されなかったこと。結果的に純子一人が頂上に立ったことがストーリー上の一つのポイントになるが、そもそもピークアタックを目指したのは4人だけで、他の十数人はベースキャンプにいるわけだが、なぜそんなことになるのか素人には分からない。帰国後登頂した多部だけが世間にもてはやされたことに不満が噴出したことが描かれるので、なおさら知りたいと思った。エベレスト登頂を目指して資金集めに全員が奔走する段階で、素人ではないので全員が頂上に立てると思っていたわけではないはず。各人がどういう思いで隊の登頂を目指していたのか教えてくれないと、何が不満だったのか、純子に何が足りなかったのかも見えてこない。

いずれにしても登頂するのは登山隊のほんの一部に過ぎないのが当たり前のようなので、登頂した人だけに脚光が当たるのはこの世界の常なのだろうから、隊長はよっぽど気を遣わないとこういうことになるのだろう。隊長がその場の状況に応じてピークアタックする人を人選するのであれば不満も生まれにくいだろろうが、もしかして隊長自身がピークアタックするというのが異例なのか??? そのあたりも登山隊の常識を教えてくれると、もっと理解が深まったと思う。

役者的には、
吉永さゆりは80歳に到達したとは思えない相変わらずの可憐さに感動する。佐藤浩市は相変わらず上手い。作中では純子を支えているが、作品を支えているのも佐藤浩市だと思う。
一方今回秘かに楽しみにしていたのは、のんだったが、残念ながら今作では特に光るところは無く至って普通だった。“変な”キャラを魅力的に演じられるのが彼女の真骨頂だが、“普通”のキャラを演じると平凡になってしまうのか。

登山家田部井純子に興味が無くとも、ひとつのことに人生を掛けて生き抜いた女性と彼女を支えた家族の物語として十分楽しめる作品になっていると思う。

泣き虫オヤジ
PR U-NEXTなら
映画チケットがいつでも1,500円!

詳細は遷移先をご確認ください。