「家族愛>登山なので、偉業の過酷さを知りたい人向けの映画ではありません」てっぺんの向こうにあなたがいる Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
家族愛>登山なので、偉業の過酷さを知りたい人向けの映画ではありません
2025.11.4 TOHOシネマズ二条
2025年の日本映画(130分、G)
原案はモデルとなった田部井純子の自伝『人生、山あり“時々“谷あり』
世界初の女性エベレスト登頂者とその家族を描いたヒューマンドラマ
監督は阪本順治
脚本は坂口理子
物語は、1975年に世界初のエベレスト女性登頂者となった登山家・多部純子(のん、現代パート:吉永小百合)が描かれて始まる
隊長・新井涼子(和田光沙)、アタッカーの岩田広江(円井わん)を含めた11人で構成された女性のみの登山隊は、記者の北山悦子(茅島みずき、現代パート:天海祐希)とともにエベレスト登頂を目指していた
現地のシェルパたちが高山病に罹って離脱する中、アタック隊も雪崩に巻き込まれて装備を失ってしまう
そんな中、新井の判断にてアタッカーに純子と岩田を抜擢したのち、最終アタッカーは純子が指名されることになり、無事に登頂を果たすことができた
帰国後、夫・正明(工藤阿須加、現代パート:佐藤浩市)と娘・教恵(花門俐娃、現代パート:木村文乃)に出迎えられた純子は、瞬く間に時の人となってしまい、それが原因で色んな不和が起こってしまう
それから35年後、純子は腹膜癌に罹り、化学療法を始めることになった
夫と教恵とともに住んでいた純子だったが、帰国後に産んだ息子・真太郎(若葉竜也)との関係はあまり良くなく、彼は高校時代から別居状態になっていた
真太郎は「有名人の子ども」というプレッシャーに晒され続けていて、それに反発するように校則を破ったり、挙げ句の果てには中退をしてしまう
その後、親戚の家に預けられることになった真太郎は別の高校に編入し、現在に至っていた
母の病気療養を聞きつけて帰省した真太郎だったが、純子は手術直前に「東日本大震災の被災者支援活動」を始めたり、その募金活動でチャリティコンサートを開くなどしていて、さらに戸惑いを深めていた
映画は、エベレスト後の家族を描き、癌治療と復興支援活動をメインに描いていく
被災した高校生と一緒に富士山に登ろうというプロジェクトを立ち上げた純子は、手術を乗り越えて、それを果たすことになった
その活動には真太郎も参加し、4回目を迎える頃には純子の代わりにリーダーを務めたりしていた
そんな彼は「母親に対する遺恨」を抱えていて、それを暴露することで家族内の不和を生み出していた
姉は「そんなに息が詰まるなら出ていけば良い」と言い、真太郎はそれを機に母元を去っていた
そして、被災者支援活動を通じて母親と再会し、遺恨というものが払拭する流れとなっている
物語は本人の自伝を「原案」とするオリジナルで、「事実を基にしたフィクション」となっていた
どこまでが本当かはわからないが、Wikiに載っていることは大体映画内で描かれていて、ある程度は史実ベースになっているのだと思う
前半のメインは「チームの離散」であり、せっかく目的を達成したのに、最終的にアタッカーとして登頂した純子だけが「特別な人扱い」されていることが原因となっている
その後、最後にアタッカーとして命運を分けた広江との交流などは描かれず、亡くなった後に墓参りをしていたというエピソードだけが描かれている
なので、映画の感覚だと、チーム離散後の和解というものは無く、半ば贖罪のような形でお墓参りをしているように描かれている
特にアタッカーを指名した隊長との関係はまったく描かれないので、そこら辺はモヤモヤする展開となっている
実名を使わないところで「かなりの脚色が入っている」ことはわかるのだが、協力者に夫と息子がいるので、かなり家族目線寄りになっているのかな、と思った
エベレスト登頂よりも、その後の日々をメインに描いていることから、偉業を成し得た後の「有名人の苦労」みたいなものがメインとなっていた
いくら本人が「みんなで成し得た」と言っても、マスコミは「この人が一人で登り切った」みたいな論調で報道してしまえば、それが世間の声になってしまう
そう言った「報道のされ方」というものはほとんど描かれないのだが、メンバーの反応を見ると「世間は一人で登った」みたいな感じに受け止めている世界線なのだなと感じてしまう
エベレストに関わらず、登山の過酷さというものは映画からは伝わらず、そこに至るまでの準備とか、登山途上の危険度みたいなものはほぼスルーされている
なので、登山映画を観たい人向けではなく、あくまでも家族愛の物語として、偉業によってどうなったのかを眺めるテイストになっているのは致し方ないところなのかもしれない
いずれにせよ、吉永小百合ファン向けの映画だと思うし、それ以上でも以下でもないような印象があった
家族愛の映画としてはまとまっているものの、随所に意味不明な演出があったりする映画だったと思う
真太郎の転校先の生徒の反応とか、母親の肩身を持って登山する高校生とか、その後何かあるのかなと思っても何もないみたいなシーンが多い
登山隊の内紛から解散に至る過程も想像にお任せしますレベルだったので、あえてあの不和を描く必要があったのかはわからない
そのエピソードがなくても、いきなり時の人となって家族が苦労した、みたいな話にはなってしまうので、結局どうなったのかを描かないのならバッサリとカットしても良かったように感じた
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