「日本の女性が頂点に立つ、2025年10月の奇妙な共時性」てっぺんの向こうにあなたがいる 高森郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
日本の女性が頂点に立つ、2025年10月の奇妙な共時性
登山について知識が乏しく、主人公のモデルになった故・田部井淳子のことも知らなかったが、1975年のエベレスト登頂と1992年の七大陸最高峰登頂はいずれも女性で世界初の偉業という。劇中で描かれているように、70年代といえば登山界隈に限らず男性優位が当たり前の時代に、女性たちだけで登山チームを組み数々の困難を乗り越えて8848メートルの世界最高峰の頂上に立った。そんな偉大な女性を題材とする劇映画が、憲政史上で女性初の内閣総理大臣が誕生した2025年10月に劇場公開されることに、まったくの偶然とはいえ奇妙な共時性を感じてしまう。日本の政界も依然として男社会で、その頂点である首相に女性が初めて登りつめたわけだから。
映画に話を戻すと、田部井淳子をモデルにした本作の主人公・多部純子の青年期をのん、高齢期を吉永小百合の2人で演じ分けている。吉永の主演映画ゆえ、純子ががんで余命宣告を受けてからの闘病や家族友人らとの関わり、東日本大震災後の慈善活動や東北の高校生らとの富士登山イベントなどが話の大半を占めるが、個人的には登山家として大いに活躍した青年期のエピソードをもっと描いてほしかった。
吉永と天海祐希(新聞記者の北山悦子役)は「最高の人生の見つけ方」でも共演しており、長年の親友という関係性に説得力さえ感じさせる。同様に、純子と悦子それぞれの青年期を演じるのんと茅島みずきが生むアンサンブルも好ましく、この2人の関係が長い年月を経ても変わらないことが自然に受け入れられた。
登山に伴う楽しさや困難、登頂時の達成感などを描くことが主眼ではないので、それらに期待すると肩透かしを食うが、一人の女性として人間としての生き方や、家族・友人との関わり方など、より普遍的な要素についての示唆に富む娯楽作に仕上がっている。
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