劇場公開日 2025年1月24日

「奇抜な設定と、ジャンプスケアに頼らない恐怖演出が光る」ミッシング・チャイルド・ビデオテープ 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5奇抜な設定と、ジャンプスケアに頼らない恐怖演出が光る

2025年2月21日
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鑑賞方法:映画館

怖い

単純

ホラージャンル・フィルムコンペティション「第2回日本ホラー映画大賞」にて大賞を受賞した、近藤亮太監督の同名短編映画を長編映画化。総合プロデューサーにはJホラーの重鎮・清水崇。

山で遭難者の捜索を行うボランティアの青年・敬太(杉田雷麟)は、霊感を持つ青年・司(平井亜門)と同居生活を送っている。ある日、敬太は実家の母から送られてきた荷物の中に、13年前の弟・日向の失踪事件にまつわる、一本のビデオテープを発見する。司と共に映像を確認すると、そこには幼い自分と日向が、摩白山にて“謎の廃墟”を訪れた際の映像が収められていた。
司は、敬太にテープを処分してこれ以上深入りしないように助言するが、敬太は自身の過去に向き合うべく動き出す。そんな中、先日敬太が助けた遭難者の件を取材しようと、新聞記者の美琴(森田想)が司を訪ねてくる。
やがて、美琴は上司である塚本(藤井隆)から、摩白山に関する過去の取材資料を渡される。その中には、かつて摩白山で行方不明となった大学生グループの遺留品のカセットテープもあった。
時を同じくして、摩白山付近の民宿に宿泊していた敬太は、民宿の息子から摩白山に関する言い伝えを聞く。
「あそこは、皆が神様を捨てる場所だ」とーー。

全編に漂う静かで不気味な雰囲気。自主制作映画のような手作り感を感じる作風は好みが分かれそうだが、ジャンプスケアに頼らず、あくまで“何かありそう”という雰囲気で恐怖を構築していく様子には好感が持てる。
最初は何なのか分からないまま提示された要素(登場人物の素性や事件の真相等)が、次第に判明していき、物語の輪郭が現れていく様子も、拙いながらも凝った構成にしようという努力が感じられる。しかし、「分からない」という要素を先に提示する以上は、観客にそれ自体に対するストレスを与えず、上手く物語を追わせるだけの高い技術が求められるので、安易に手を出すには危険な要素なのだと確認させられた。

それには、登場人物の魅力が何よりも重要になってくるのだが、残念ながら主人公の敬太に、そういった惹きつける要素が感じられなかった。冒頭でボランティア活動によって幼い遭難者を発見するという善行を見せるのは良いが、自宅に帰宅してからの司とのやり取り等に素人臭さが出てしまっており、「演じている」感が伝わってきてしまったのが、彼と距離が出来る原因となってしまったように思う。

霊感持ちの司は、それ自体が物語上必要不可欠な要素のため、敬太より魅力的に映った。見えないものが見える事について、はじめは美琴に「怖くない」と語っていたが、クライマックスでは「一度でも怖くないなんて感じた事はない」と、本音を暴露する姿もベタだが人間的。しかし、司は初めて敬太と出会った時から、彼のそばに居る日向の姿が見えていたのなら、山に向かわせない為にももっと幾らでも言うタイミングあっただろと言わざるを得ない。それが、ラストで自身がビデオテープ内の映像世界(=謎の廃墟と同じく、存在しない世界に囚われたという事だろうか?)に囚われてしまう結果に繋がるのだから。

元々、短編作品だったものを長編作品にした影響か、短編映画的な全容の掴めない理不尽さがラストまで繋がる本作の“怖さ”なのだろうが、長編映画にする以上は、クライマックスの展開にはもう少し捻りの効いたテンタメ性のある展開が欲しかった。廃墟内で敬太が日向の姿を借りた亡霊(神様?)に向けて「ごめんなさい」と言った事、敬太の実家で司に「両親は俺が日向を殺したと思っている」と語った事から、てっきり敬太は日向を突き落として殺害していたのだと思ったのだが、どうも違う様子(ただし、日向の死体がうつ伏せで倒れており、頭部から出血した様子の血溜まりもあったので、本当はそうなのかもしれないが)だ。神を捨てる山に、自分は知らずに弟を捨ててしまった。そして、今度はその真実を知ってしまった司を…といった具合の後味の悪さを強調する作りにしても良かったと思うのだが。
また、暗闇で腕を掴まれた美琴が「放して」と言葉を振り絞った途端、本当に手を放してしまうのはどうなのだろうか?随分物分かりの良い霊だなと思う。

ラストで摩白山を訪れた民宿の息子の失踪。ビデオカメラの映像に収められる敬太と、更なる神隠しを予想される不穏さは嫌いではないのだが、演出の平凡さからか、思わずポカンとしてしまった。

「人々が神様を捨てる山」という奇抜な設定、ジャンプスケアに頼らない恐怖演出と、随所に光る部分もあるが、同時に様々な粗も目立つ作品。とはいえ、監督にとっては本作が長編デビュー作。今後更なる研鑽を積んで、Jホラーの未来を担う人物になる事を期待したい。

緋里阿 純