「勇気ある決断」ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
勇気ある決断
夫ライアン・レイノルズは今ノリにノッてるが、妻ブレイク・ライヴリーもすこぶる順調。本作も全米や世界中でヒット。日本では全く話題にならなかったけど。
間違いなくライヴリーに新たな代表作が一つ加わったが、問題が。
監督兼ライル役のジャスティン・バルドーニとの作品内容や描写を巡っての意見対立や不仲。それがまるで劇中の関係を揶揄してるようで皮肉。
また、ライヴリー自身も本作の全米プレミアでの場違いな宣伝で大批判。
これらかなり波紋を呼び、今も尾を引いてるとか。
作品そのものやヒットよりそちらの方がゴシップ的にクローズアップされたのが不憫。
だって、ただそれだけになるには惜しい作品。
ヒロインが自身の夢を叶え、イケメンと出会って、幸せに…だけだったら中身の無い作品だったであろう。
ラブストーリーではあるが、あるシリアスな題材がドラマに重みを落とし、それがヒロインの決断と新たな一歩として、思ってた以上に見応えあるヒューマンドラマにもなっていた。
開幕、父親が亡くなり帰郷したリリー。
父は娘を愛していた事から、母から弔辞を頼まれる。パパの好きな所を5つ挙げて。
葬儀。弔辞を読む時が来た。
が、父親の好きな所5つを挙げられない。メモも白紙。
リリーは場を去る。
何て薄情な娘!…と最初は思ったが、見ていく内に納得した。
リリーも娘として父を愛してはいただろう。
が、どうしても好きな所を挙げられなかった。
何故なら、父は暴力を振るっていた。
リリーに対しては振るった事無かったが、母はよく殴られ…。
昔付き合ってた彼氏は半殺しに…。
それがリリーの心のトラウマに。
絶対に母と同じにはならない。絶対に暴力を振るう男と恋に落ちたりしない。
…筈だったのに。
リリーの前に現れたのは、トラウマとは真逆。
医師のライル。イケメンで、セクシーマッチョで、お金持ちで、何より性格も情熱的で優しい。
初めて会った時はたまたま偶然。この時から互いに惹かれ合う。
夢だった花屋を開く為に奮闘。空き店舗を片付けていたら、前の店の古い求人広告を勘違いして見て、一人の女性がやって来る。
アリッサ。すぐ仲良くなり、友達兼従業員に。出会ったその日から。
アリッサは既婚者で、店の片付けを手伝わせる為夫を呼ぶ。陽気な夫。
それと、夫と一緒にいた兄も。その兄が何と…!
ライル。
何ともベタでチープな再会だが、これはもう運命では…?
初めて会った時燃えた想いが再燃。正式に付き合うように。
アリッサは当初は反対。親友と兄が付き合うなんて…って訳じゃないようだ。兄の性格を知っているから。
が、二人の情熱的な恋は心配に及ばず。深く深く愛し合う。
晴れて店もオープン。
何もかも順風満帆。幸せの絶頂。
そんな時…。
ライルが料理を。沸騰したお湯に慌て、皿を落として手を切ってしまう。
駆け寄るリリー。
この時ライルは取り乱していたのか、つい手がリリーを殴打…。
これは単なるアクシデント。そう自分に言い聞かせた。
母親が訪ねて来る。ライルの紹介も兼ねて、レストランでディナー。
そこで再会する。
初恋の相手、アトラス。このレストランのオーナー。
立派に成長していた。
だって、アトラスは…。
現在のリリーと並行交錯しながら、10代のリリーのドラマも展開。
母に暴力を振るう父に重圧を感じていたリリー。
そんな時、向かいの空き家でこっそり暮らすアトラスを見掛ける。
家庭の問題で家出中のアトラス。空き家に住み、ホームレスのような暮らしのアトラスを、学校中は変人扱い。
同じく家庭の問題を抱えるリリーはアトラスにシンパシー。
彼にこっそり食べ物を届けたりして、親密になる。
リリーにとっては初恋。鎖骨部分にハートを彫ったりして、その想いを心身に刻む。
が、関係が父にバレ…。
父に半殺しされた彼氏というのが、アトラスだった…。
アトラスとはそれっきりだったが、まさかの再会。
あの時の想いが甦る…。
が、二人だけの秘密と過去。
やがてアリッサが出産。その幸せに突き動かされて、ライルがプロポーズ。
二人は結婚する。
これまで以上に君を愛し、大切にするとライル。その想いは激しい。
皆集ってのディナー。偶然にもアトラスのレストラン。
トイレに行くフリしてアトラスと話していた所を…、ライルが目撃してしまう。
アトラスがリリーの初恋の相手だと知っていた。二人の関係を疑い、激昂。
気性が荒いライルをアトラスは警戒する。
会った途端に衝突したかのように、取っ組み合い。
制止に入るリリー。勘違いや誤解。一応夫の肩を持つが…。
店を出たライルが強く迫る。
二度と奴と会わないと約束しろ。
ライルはリリーのほんの少しでも気持ちが自分から別の誰かに行く事が許せない。
初恋の相手の話、その時鎖骨部分に彫ったハートさえも。
ライルとの約束を守って会わないでいたが、ある日アトラスの方から店に会いに来た。謝罪。
しかし、その事もライルにバレてしまう。
ある嬉しい事がきっかけだったが、それを使って強要するライルに戦慄…。
リリーの愛を確かめる為、求める為、執拗に身体を迫る。
リリーは激しく抵抗。逃げ出す。
階段で揉み合い、リリーは足を滑らせて…。
命に別状無かったが、その時の事を思い出す。
足を滑らせたんじゃない。ライルが突き落とした…。
リリーは家を出る。アトラスの元に身を寄せる。
リリーを気遣うアトラス。かつてリリーが自分にそうしてくれたように。
初めて会った時、アトラスは自殺を考えていた。
そこを救ってくれたのがリリー。
今度は自分がリリーを支える番。
そんなリリーのお腹の中に…。ライルとの子供。妊娠していた。
ライルとは距離を置いた。暫く会わないでいた。
働きながら、お腹の中で子供が成長しながら。一人で。
でも、さすがに妊婦一人では困る時がある。
そこで助力として呼んだのは…、まさかのライル。ライルも自分にも否があると認めたのか、おとなしくなっていた。
復縁を切り出す。はっきりとした返答を出来ないままのリリー。
ある時アリッサから言われる。妹として兄を許して欲しいけど、親友としてまたあなたが兄の元に戻ったら絶交する。アリッサ、いい奴!
ある時アトラスから言われる。君がまた人を愛せるようになるまで、俺は待ってる。
やがてリリーは出産。可愛い可愛い愛おしい愛おしい娘。
父ライルにも合わせる。
と同時に、ある決断を…。
ブレイク・ライヴリーが美しさ、強さ、弱さ、複雑な内面と悲しみを体現した好演。
アリッサ役とアトラス役も好助演。ジャスティン・バルドーニもセクシーさと危うさを魅せるが、監督としての才がなかなか。
メロドラマになりそうな題材を、情感と繊細さたっぷりに。ナチュラルに物語に引き込まれた。
それだけに先述のゴシップは何だか残念だな…。
娘の名前は“エミー”に。この命名にライルは涙。
ライルとアリッサの亡き兄エマーソンから取った。
ライルとアリッサには兄がいたのだ。幼い頃に死んだ。その死の原因というのが…
子供の頃、兄エマーソンと西部劇ごっこをして遊んでいたライル。
父の部屋から銃を見つける。おもちゃだと思っていた。詳細は…言うまでもないだろう。
リリーもアトラスも悲しい過去を背負っているが、ライルもまたそうなのだ。
亡き兄の名前を継いだ娘を心から愛すると誓う。絶対に守る。その言葉に偽りは無いだろう。
娘の誕生をきっかけに、ライルも変われるかもしれない。
そんなライルにリリーは切り出す。離婚を。
拒否するライルだが、リリーのある質問がKOパンチ級のぐうの音も出ないほど。
エミーに彼氏が出来て、もしアクシデントで殴られたら…?
エミーが彼氏と揉み合って、もし足を滑らせ…いや、階段から突き落とされたら…?
エミーは拒んでいるのに、もし彼氏が執拗に強要してきたら…?
それでも大丈夫と言うエミーに、あなたは何て言う…?
答えは一つ。決まっている。親なら。
かなり辛辣かもしれない。ライルだって変われるかもしれない。
が、暴力を振るったのは事実。そんな夫の元で、自分はまだしも娘は幸せでいられるか…?
かつて自分がそうだったように。
母が父と別れなかった理由…。
父を愛してた事もあるが、別れを切り出す方が難しいから…。
今もそんな思いを抱く人は多く居よう。
その苦しみを作品は代弁。そしてエール。
タイトルが秀逸。
“ふたり”って誰と誰の事…?
リリーと、直に会って離婚を決めたライル…? ラスト、その後を匂わせるアトラス…?
ではない。
母、自分。何かの呪いか因果としか思えない暴力の連鎖。
その負を絶ち切る。終わらせる。私と娘で。
共感ありがとうございました。
わー、このレビューの隅から隅まで泣けてくるほど共感してます。
本当にブレイクにとっても、監督にとっても、続編を待ち望むファンにとっても、誰も得しないゴシップが、ただただ残念でなりません😢。
共感どうもです。
ベストセラーの続編「IT STARTS WITH US ふたりから始める」監督と揉めて訴訟騒ぎになったのでブレイク・ライヴリーでは撮れないんでしょうねえ。