「君を好きになって」大きな玉ねぎの下で 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
君を好きになって
邦画のヒット・ブランドの一つ、名曲モチーフ。
『涙そうそう』『ハナミズキ』『雪の華』『糸』などいずれもヒットし、見る者の涙を流してきた。
しかし、私ゃどうも…。だってどれもベタなお涙頂戴ラブストーリー。
今年1月に公開され、やはり大ヒット&観客の涙を流した『366日』も全く同じ。年末に公開されるスピッツの名曲モチーフ『楓』もそんな匂いがぷんぷん。よく飽きもしないで次から次へと創意工夫も無い話を作るもんだ。
その『366日』と同時期に公開されたのがこちら。楽曲モチーフは爆風スランプ。
ば、爆風スランプって…。昨年40周年を迎えたとは言え、今の若い人で知ってる人いるの…? まあ『RUNNER』くらいなら聞いた事あるかもしれないけど…。
興行成績でも明暗分かれ、『366日』は25億円の大ヒットに対し、こちら1億円前後という比べものにならないほど。
『366日』はつまらなかったけど、こちらはもっとつまらないのかと思ったら、興行成績なんて当てにならない。
何だ何だ、こちらの方がずっと良かったぞ。
まあこちらも名曲が繋ぐ他愛ないラブストーリーかもしれないが、ベタで不自然ではない丁寧な語りやちょっと出来過ぎだけど巧みな構成がなかなか良かった。
大学生の丈流は友人らとの飲みの席で、偶々隣席の女性・美優と言い合いに。その時友人が倒れ、美優が応急処置を。美優は看護学生であった。駆け付けた救命士の女性は美優の処置を評価する。
丈流の母は病弱で入院中で、真面目な父とはソリが合わない。母の見舞いで訪れた病院でばったり美優と再会。美優はここで看護実習を受けている。凝りが残る2人は顔を合わす度に口喧嘩…。
偶然の巡り合わせは他にも。昼はカフェ、夜はバーの店。丈流はここの夜のバースタッフとしてバイトし、美優は昼のカフェスタッフとしてバイトしている。しかし、お互いは知らず…。
ここまで縁があれば運命の赤い糸を思うが、その糸が絡まっている。が、その糸が徐々に解れるような事が…。
バイト先には昼夜連絡ノートがある。これを通じ、交流が育まれていく。勿論、お互いそうとは知らず。夜の人、どんな人なんだろう…? 昼の人、どんな人なんだろう…? 思いが膨らむ。
なら、こっそり見に行けばいいじゃん…と思うが、そしたら話はそこで終わってしまう。令和デジタル世代にアナログな連絡ノートやり取りというのがいい。
連絡ノートでは何でも話せる。ところが直に顔を合わすと相も変わらず…。
そんな2人にも変化が。お互い、A‐riというアーティストや彼女がカバーした名曲『大きな玉ねぎの下で』のファン。それがきっかけで少しずつ交流を深めていく。
神尾楓珠と桜田ひよりがナチュラルに好演。とりわけ桜田ひよりのツンツンと可愛さが弾ける。友人のお礼と不器用に美優に食事を奢る事になった丈流。「あんたの財布空っぽになるまで食べ尽くしますから!」に私ゃズッキュン!
美優が好きなラジオ番組。A‐riもレギュラー。
美優も時々投稿し、美優の手紙とリクエスト曲『大きな玉ねぎの下で』が選ばれた。
ナビゲーターがこの曲に纏わる思い出を話す…。
昭和から平成に移り変わって間もなく。
神奈川の三浦に住む高校生の虎太郎と大樹。大樹はペンフレンドのヤンキー風の今日子に想いを寄せ、虎太郎に代筆を頼んでいた。虎太郎は代筆する内に、写真に一緒に映る地味な女の子に惹かれていた。実は…。
写真に映るヤンキー風の“今日子”は明日香。地味な女の子が本当の今日子。明日香も今日子に代筆を頼んでいた。こちらも代筆する内に、今日子は写真に一緒に映る虎太郎の事が気になっていた。
文通する内にお互い、爆風スランプの『大きな玉ねぎの下で』が好きな事を知る。ちょうど年明けに日本武道館で爆風スランプのライヴが。
虎太郎は思い切って誘う。了承する今日子。お互い、その日に本当の事を言うつもりで。武道館が玉ねぎに似ている事から、“大きな玉ねぎの下で”。
しかし…。天皇崩御でライヴは自粛。手紙で連絡しようも、時代の移り変わりで郵便局は大混雑。
ようやく連絡が取れ、6月のライヴ再開で会う約束をするが…。
今日子は病弱で長らく入院の身。体調芳しくなく、ライヴなどとても…。
名曲の中に秘められた思い出。もどかしい文通。…
懐かしく思い出すナビゲーターは一体…?
美優の投稿がきっかけで、平成初期の4人の高校生の運命も動き出す。
ナビゲーターは大樹。
虎太郎と今日子は丈流の両親。
明日香はあの時の救命士。
世間は狭いと言うか、何てご都合主義!
でもでもでも、
4人は久々に再会を果たす。その時の温かさ、微笑ましさ。
原田泰造、西田尚美、江口洋介、飯島直子がリアルに再会した旧友に見えてくる。
すれ違い続いていた虎太郎と今日子だが、ちゃんと会えて結ばれたなんて素敵…。
高校時代の虎太郎=藤原大祐と今日子=伊東蒼は応援したくなっちゃう。
この平成パート、映像も音声も当時風でノスタルジック。
令和の2人にも進展。
美優は連絡ノートの夜の人と丈流が同一人物である事に気付く。何か嬉しい。
丈流はこっそり昼の人を見に行く。カウンターに立っていた素敵な女性にときめく。
ところが丈流が見たのは美優のバイトの先輩。
この間違いが原因で、良好になっていた2人の関係に誤解と拗れが…。再びぎくしゃくムード。
そうなるという事は、お互い意識し合っている証拠。
だけど、素直になれないヤキモキ感。
じれったいけど、2人の好演もあって恋路を見届けたくなる。
クライマックスを飾るA‐riのライヴ。
“大きな玉ねぎの下で”で『大きな玉ねぎの下で』を。
平成と令和が交錯するピュアな純愛ストーリー。
ベタになりそうな所を、丁寧に紡ぐ。監督は『アイミタガイ』の人。この温かさに納得!
この手のジャンルで久々に悪くなかった。
尚、私の爆風スランプの推し曲は、『ガメラ 大怪獣空中決戦』の主題歌『神話』(レビュータイトルに引用)と猿岩石のヒッチハイク応援ソング『旅人よ』です。
共感ありがとうございます!
現代の男女関係を表現している作品なのに、タイトルの爆風スランプの名曲が流行っていた頃の昭和のアナログ感が良い感じを演出していて好感が持てます。実現できるかどうかわかりませんが、続編に期待してしまいます。

