「濃密な人間関係という恐怖」嗤う蟲 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
濃密な人間関係という恐怖
田舎ホラーというと、閉鎖社会の排他性や、よそ者が味わう疎外感が強調されるものだが、この映画の場合は、それとはまったく逆で、濃密な人間関係から生じるプライバシーの侵害とか、私生活への過干渉とかが、恐怖の源泉となっているところが面白い。
まるで盗聴器でも仕掛けられているかのように、妻の職業やら妊娠やらの情報が、あっという間に村中に広がる様子は、コメディのような味わいがある反面、監視社会まがいの息苦しさも感じられて、主人公夫婦の居心地の悪さが伝わってくる。
生まれた赤ん坊を皆で育てようとする村人の態度に妻が反感を抱き、大麻の栽培の手伝いを夫が断った時点で、「早く村から立ち去れば良いのに」と思うのだが、グズグズしているうちに、案の定、取り返しのつかない事態に巻き込まれていくことになる。
それにしても、向かいに住んでいる夫婦にしても、村に駐在している警察官にしても、あるいは、その他の村人たちにしても、どうして村から出て行かないのかが不思議である。
特に、警察官は、奥さんと子供が都会で暮らしているのだから、早く妻子の元に行けば良いのにと思ってしまう。
いずれにしても、村人たちが自治会長の言いなりになっているのは、豪雨災害の後でも村での生活が存続できるように尽力してくれたからで、村人にとっての村は、それだけ「住み続けたい」と思える場所なのだろう。
ただし、映画を観た限りでは、村人たちが、後継者を待ち望むほど、絶やしてしまいたくないと願う「村の魅力」が、今一つ理解できない。仮に、大麻による利益がそれだとすれば、驚くべき「村の秘密」としては、インパクトに欠けると言わざるを得ない。
少なくとも、主人公夫婦については、都会での暮らしで酷い目にあったとかの「村を出て行きにくい理由」が明示されていれば、その決断の遅さにイライラすることもなく、感情移入もしやすかったのではないかと思う。
ラストに向けての展開も、もしかしたら火祭りで「阿鼻叫喚」になるのではと期待したのだが、何のヒネりもないまま予想の範囲内に落ち着いてしまった感があり、物足りなさが残った。