劇場公開日 2024年11月22日

「美は、沈黙する」海の沈黙 たまさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0美は、沈黙する

2024年12月5日
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稀代のシナリオ作家倉本聰氏、今作で描こうとしたテーマ
[美]とはなんぞや。美とは利害関係があってはならず、美の価値は、ある特定の人々によって決定されるものではない。
美は美であってそれ以上でもそれ以下でもない。
ラストに至るセリフ、また、インタビューなどでもそう答えておられる。
ひいては、物事事象の一断面のみを切り取り、それだけで判断し行動、発言しがちな現代社会の私たちに対するアンチテーゼでもあろうか。

今作、物語は世界的画家の展覧会における贋作事件。それにより、画壇を追放された1人の才ある画家の姿が、立ちあらわれてくる。
映画のシナリオは説明的ではない。放逐された画家津村と田村の過去の確執、津村と彼を支えるスイケンとの関係、清水の存在、かつて恋愛関係にあった田村安奈とのエピソード…など多くを説明的にみせることはせず、観念的にかなり寄ったシナリオだ。

北の国から、やすらぎの郷シリーズなどとは異なったアプローチである。

キャスト陣が素晴らしい。
画壇を追放された天才画家津村を演じる本木雅弘。時に静謐、激情に振れる余命いくばくもない孤高の画家を、秀逸に演じる。支えるスイケンの中井貴一の圧倒的存在感。小泉今日子の、静かにしかし激しい想いをひめた演技。石坂浩二、清水美砂、仲村トオル、など名優ぞろい。

監督若松節朗。初期作ホワイトアウトで日本にも大作アクションを撮ることができる人がいるのか、と驚いたが、
あれから20数年、沈まぬ太陽、などの大作からTV人間ドラマまで幅広く監督している。近年見たTVドラマ、ガラパゴス。そのメッセージ性も相まって、ダイレクトに胸打たれた。
今作もまたスケール感の大きな画作りに、人間の運命、繊細な感情をスクリーンにやきつけている。

劇中、今際の際で津村が見るゴッホとの夢。
津村が描いた絵画をゴッホが良い作品だろう、と言う。
今作の核ともいえるシーン。

自らの価値観に対するゆらぎ、現代社会への挑戦ともいえるメッセージ。

自らに問う。お前は本当に美しいものをみたことがあるのか、と。

たま
たまさんのコメント
2024年12月6日

ほんとにそう思います。時代、年齢、人生における経験…
それらを生きてこなければ、本当の意味で理解した、とはならないような映画でしょうね。一生わからないかもしれない…。そういうこともありますね

たま
The silk skyさんのコメント
2024年12月6日

こう言う作品を深く味わえる方は其なりの人生を歩まないと理解は難しいでしょうね。

The silk sky
たまさんのコメント
2024年12月5日

こちらこそ共感ありがとうございます。
今作、なかなか難しいですよね。
自分もえらそうにレビューしてますが、
本当に理解できたかどうかは、あやしいもんです。トミーさんのおっしゃるように感動はしなくても第一印象はなかなか変えることは難しい、その通りだと思います。本木雅弘、中井貴一の演技には感服しました。

たま
トミーさんのコメント
2024年12月5日

共感ありがとうございます。
美については、自分がこの作品を観て感じた事しか言えません。次回観た時、感動しなくても第一印象の事実は曲げられないってのが今、頭に浮かんでます。
若松監督の作風は古く感じられるかもしれませんが、こういう作り手も必要ですね。

トミー