劇場公開日 2024年11月22日

「竜次の佇まいこそ絵画 ..... しかし若干の矛盾も」海の沈黙 LittleTitanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0竜次の佇まいこそ絵画 ..... しかし若干の矛盾も

2024年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

萌える

 本作はプロットもメッセージもシンプル。落札額や専門家の批評に、美の基準を委ねるのは虚しい。不遇だが美を追求し続ける津山竜次の生き様を描き、芸術のあり様を問いかける映画。その手の疑問自体は、20代の頃あきる程推敲したので、新鮮味はない。ただ、本木雅弘が体現した津山竜次の佇まい自体がとてもartisitcで、遺した絵画以上に印象的だった。金銭的には不遇でも、女性(セフレ?)には困らなそうな描写こそ典型的過ぎて鼻に付くが、自身が課した高すぎるハードルに妥協せず苦悶い続ける姿は美しい。
🌊🔥
 しかし、番頭のスイケン(中井貴一)が、高名な画家・田村修三(石坂浩二)に告げる侮蔑は、竜次の潔さとは矛盾する。スイケンは、竜次を画壇から葬った田村への憎しみを露わにし、竜次の模写(贋作)の方がオリジナルより優れていると高圧的に言い放つ。それは田村自身が認めているから、誰の目にも明らかなのかもしれないが、他人の評価は気にしないと言い遺した竜次の達観に反しないか? 落札額や専門家の批評ではなく、自身が感じる「美」を大切にしようって事じゃないのか 「美は絶対」という台詞に奢りはないか? スイケンの前で「この絵が好き」とか言ったら、お前さん何も分かってないと、彼の審美眼を押し付けられそうで怖い。
 また、津山竜次の絵画が本当に誰の目から見ても圧倒的に美しいのなら、何故いつまでも不遇だったのか? 他人の絵画を塗りつぶしたり、いいとこのお嬢に入れ墨しようとして日本の画壇を追われたとて、スペイン等で認められる機会はなかったのか? 結局は贋作でなければ稼げなかったのなら、テクニックをあってもオリジナリティに欠けていたのか? 竜次が真の天才なのなら、Banksyのような覆面画家として名声を得るチャンスをもあった筈な気がしてならない。

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LittleTitan