劇場公開日 2024年11月22日

「美しいものは美しい」海の沈黙 サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0美しいものは美しい

2024年11月27日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

幸せ

朝一番の回を見たもんだから映画館を出たら外はまだまだ明るくて、映画とのギャップにすごく違和感を感じてしまった。暗くて淡々とした間の多い作りだけど、全編昭和らしい雰囲気漂う哀愁深い映画だった。
久々のモッくん。実は映画館でお目にかかるのは初めてでして。8年振りの映画らしい。頬はこけ、髪も白く染った老け姿なのに、やっぱりカッコよくて見入ってしまう。この美しさで58歳。はぁー、すごい。小泉今日子、仲村トオルと同級生なんですね。渋さと色気。見せ方も見事でした。

ほとんどの人はモッくん目当てで見に来てると思うけど、そんな人は自分含めまんまと監督の手のひらの上で転がされてしまう。なかなか登場しない主人公にもどかしさを感じながらも、ようやく顔が映った時はもう惚れ惚れ。観客の心を分かってますね。小泉今日子や中井貴一と比べると出演シーンはかなり少ないが、流石の色気と憑依したような芝地に見とれてしまう。
それぞれこれまでのキャリアでいちばん多く演じてきたと思われるキャラクター像で、安定感が凄まじいし、複数人が絡んでるだけで楽しかった。仲村トオル、石坂浩二、中井貴一が一同に集まって会話を広げる。絵が既に面白くてテンション上がっちゃう。石坂浩二、最近こんな役ばっかりだな笑

「ブルーピリオド」「まる」と言ったように、最近は芸術をテーマに置く邦画がかなり多いけど、その中でも本作はラブストーリーを主軸にしつつ、芸術の価値に疑問符を浮かべるとてもメッセージ性の強い作品だった。展覧会で発覚した有名画家の1枚の贋作から浮き上がる、かつては天才画家と評された男の愛と憎しみの物語。たった1枚の絵から話が膨らんでいくこの構成は、「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」を彷彿とさせる。意識しなくともグイグイ引き込まれてしまうし、2転3転と雰囲気を変えていきながら話が展開されていくから、シンプルに楽しい映画になっている。

テーマだけでなく、映画そのものも美を追求された、まるで動く絵画のような1つの"作品"に仕上がっていた。ワンカットワンカット、高貴で上品さを感じさせる。ペラペラの紙ではない。厚く深みのある、ズッシリと重い等身大ぐらいの大きな1枚。海の絵というととても在り来りなものに聞こえるけど、過去や背景を知っていくうちに、その深みと重さは増していく。人も海も同じように、底知れぬ魅力が溢れていく。
個々の人物はよく描けているが、津山とあざみは特に、1体1の関係性で急に描写が雑になる箇所があり、所々で違和感を感じてしまう。ただ、絵に迫っていくと露になる人々のほんとうの姿には色々と考えさせられるものがあり、津山の代わりにスイケンがひょいと田村の元にやってくるあのシーンはそれを象徴するかのようで脳に色濃く刻まれた。

渋くて地味な大人の一本だけど、雰囲気だけでは終わらせず、ちゃんとこの作品にしか出来ない演出の数々を経て、地に足をつけたラストを迎えていたからとても満足度が高かった。美は美であり、それ以上でもそれ以下でもない。美しいの価値なんぞ、値段で表せるほど安易なものなんかじゃないんだよな。

サプライズ