「能のような映像美と、練られたストーリー」不都合な記憶 Japanese_Idiotさんの映画レビュー(感想・評価)
能のような映像美と、練られたストーリー
SFサスペンスですので前提情報を入れずに視聴することをおすすめします。自分はそうしました。以下ネタバレはありませんが、なるべくなら先に作品をご覧になってからお目通し下さい。脱・邦画的な印象も強い作品です。
感想:劇中を通じてとても静かなことが印象的です。画の構図や色使いなども非常に美しいのですが、その美しさを邪魔しないよう場面には殊更に無駄な音がありません。砂粒が落ちても聞こえそうな。それはスペースコロニーという舞台設定ということもありますが、私が途中で気づいたのは音楽がほぼ流れないことでした。多くの映画では場面を表現するためにBGMが鳴っている場合が多いのですが、この映画では中盤に差し掛かるまで効果音も抑えに抑えて、主演二人の台詞や息遣いをソリッドに拾ってゆきます。それもあって中盤以降の印象的なシーンで使われる楽曲が天から降り注ぐ福音の如く耳に届きます。
作品は近未来を背景としており、そこで「静かさ」「無駄の無さ」を表現したいがための装置がスペースコロニーやミニマルな地上の風景だと思うわけですが、それ故に視聴者の立場としては浮世離れを感じます。ロングショットも多用されすぎていたように思います。結果として視聴体験としてのリアリティが乏しく、作品の世界観にどっぷり浸かるというより「作品を遠巻きに観察しているような」感覚でした。有り体に言うと退屈に感じる場面も多々あったと思います。
最後に要望など
本作のストーリー自体は都市や「人間社会」が舞台であっても成り立つので、私としては現代日本や東南アジア大都市のワイガヤな場所を舞台においた、もっともっと陰と陽が入り交じる、人間臭くて、躍動した「別バージョン」も観てみたいです。