「【"ある女性とその父の思い残しを叶える優しさ。”今作は幼き時から二人で生きて来た兄妹の絆と、妹が抱える秘密を巡る出来事を描いた、深い悲しみに寄り添う人間の心の優しさに満ちた作品なのである。】」花まんま NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【"ある女性とその父の思い残しを叶える優しさ。”今作は幼き時から二人で生きて来た兄妹の絆と、妹が抱える秘密を巡る出来事を描いた、深い悲しみに寄り添う人間の心の優しさに満ちた作品なのである。】
■両親を早くに亡くしたトシキ(鈴木亮平)は、妹のフミコ(有村架純)の親代わりとして、高校を中退して東大阪の町工場で働き、金を稼いできた。
フミコは烏研究者のタロウ(鈴木央史)を婚約者として連れて来る。そして、結婚式の日が決まった後にトシキに内緒で彦根に一人で出掛けるのであった。
実は、フミコは若くして無差別殺人に巻き込まれたバスガイドのシゲタキヨミの記憶を幼い頃から持って生まれて来たのである。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・前半はコミカルな要素を含んで物語は進む。タロウが烏と意思疎通を図るシーンや、トシキがフミコの婚約を知って不機嫌になって、行きつけのお好み屋でグダグダとコマコ(ファーストサマーウィカ)に”誰が育てて来たと思ってるんだ!”などとクダを巻いて居たり。
けれども、その会話の中でトシキがフミコを如何に大事に思っているかが分かるし、彼が”独りで”妹を育てて来たという気持ちも描かれている。
この映画が上手いのは、コミカルな前半で後半の沁みるシーンのキーになる要素がさり気無く語られている事である。
・幼いトシキがフミコに頼まれて彦根に行くシーン。そこでトシキが見たバスガイドのシゲタキヨミの父(酒向芳)のやせ衰えた姿を偶然見て、近くにいたオバサンに”あの骸骨みたいな人は誰?”と尋ね、シゲタキヨミの死の時に天ぷらうどんを食べていた後悔から、必要最低限以下の食事しか取らなくなった事を知るシーン。
そして、二人がシゲタ家を訪ねた時に出て来たキヨミの姉(キムラ緑子)と兄(六角精児)と父の前でフミコが持って来た弁当箱に詰められた花で一杯の“花まんま”を観た時の驚愕の表情と滂沱の涙を流しながら、それを美味しそうに食べる振りをする父の姿に、まずは涙腺が崩壊しそうになるが、グッと堪える。
・そして、明らかになるフミコは若くして無差別殺人に巻き込まれたバスガイドのシゲタキヨミの記憶を幼い頃から持って生まれて来た事実。
そして、フミコが内緒でシゲタ家を訪れた事を知り、トシキは会社のトラックにタロウを乗せて乗り込み、タロウが京都大の教授になっていたシゲタキヨミの兄とカラスの形をした名刺を渡しているのを横に、”二度とフミコと接触するな!”と啖呵を切り、帰っていくのである。
・だが、フミコからシゲタキヨミが刺殺されたのが結婚式の二日前だった事を知り、トシキはマタマタ結婚式の前日にも関わらずコマコの店で大酒をかっ喰らっているが、コマコから”いい加減にしろ!”とハゲシイビンタを喰らって、翌日早朝に反省のメモを残し再びタロウとシゲタ家に向かうのである。コマコ、良いなあ。
だが、シゲタ家の人々は温泉に行ったと聞き、ガックリするのだが、フミコと同じように兄がスマホを忘れたといって戻って来た時に、トシキはシゲタ家の人々を車に乗せフミコの式場に向かうのである。
■ナカナカ来ない兄を待つ、バージンロードを歩く練習をお好み屋の亭主(オール阪神)とするフミコ。漸く着いたトシキ達。
そして、いよいよ扉が開くとフミコの横には、緊張した表情のシゲタキヨミの父が立っており、フミコはシゲタキヨミの父の手に腕を回してバージンロードを歩くのである。シゲタキヨミとその父の思い残しが叶った瞬間であり、トシキの優しさが読み取れるシーンでもある。このシーンは沁みたなあ。涙が出たよ。
その後のトシキの親族のスピーチも良かったなあ。
”皆さんのお陰で、妹は立派に成長しました。有難うございます。”
前半で”俺が育てた!”と言っていたトシキの成長が分かるし、その言葉を聞いたシゲタ家の人達が涙する姿。
そして、物心ついた時に父が他界していたフミコにとって、シゲタキヨミの父との密かな文通が、とても大切な事だったのが分かるのである。
式場から退出する参列者に一人一人声を掛けるフミコは、シゲタ家の人達に笑顔で“今日はどちらから?”と聞くのである。
思い残しが無くなったシゲタキヨミが天国に召されたという事である。だが、彦根への列車の中、寂しそうにしているシゲタキヨミの父だったが、姉が”引き出物は何だろう?”と言って包みを開けると、そこには弁当箱に詰められた花で一杯の“花まんま”があるのである。
このシーンで、再びシゲタ家の人達と共に涙が出てしまったのである。
フミコのシゲタキヨミの父への感謝が詰まった“花まんま”である。
<今作は幼き時から二人で生きて来た兄妹の絆と、妹が抱える秘密を巡る出来事を描いた、深い悲しみに寄り添う人間の心の優しさに満ちた作品である。
そして、この作品の、影のMVPはシゲタキヨミの父を演じた酒向芳さんではないかな、と年頃の娘を持つ私は思ったのである。>