「パンクガンマン、撃たれて候。 レジェンド級のミュージシャンが何故か集結した、空前絶後の“白い暴動“💥💥💥」ストレート・トゥ・ヘル リターンズ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
パンクガンマン、撃たれて候。 レジェンド級のミュージシャンが何故か集結した、空前絶後の“白い暴動“💥💥💥
銀行から現金を強奪した3人の殺し屋とその妻が、逃亡先のメキシコでギャング一家と抗争を繰り広げるというパンク・ウェスタン『ストレート・トゥ・ヘル』(1987)のディレクターズカット版。
殺し屋たちの雇い主、デイドを演じるのは『ナイト・オン・ザ・プラネット』『コーヒー&シガレッツ』で知られる映画監督/脚本家、ジム・ジャームッシュ。
1967年公開のマカロニ・ウェスタン『情無用のジャンゴ』を翻案した作品。当時は興行的にも批評的にも総スカンを喰らったのだが、後年カルト映画としてその地位を確立。日本では特に人気が高いのだとか。
低予算で製作されたインディペンデント映画でありながら、“伝説のパンク・ロッカー“ジョー・ストラマーに始まり、“愛すべき厄介者“シェイン・マガウアンが率いる「ザ・ポーグス」、“ニュー・ウェイヴの旗手“エルヴィス・コステロ、“ディスコの女神“グレイス・ジョーンズ、そして後にグランジバンド「ホール」を結成する事になるコートニー・ラヴ、更には“ボーン・トゥ・ビー・ワイルド“な映画人デニス・ホッパーまで、歴史に名を残す超一流ロックンローラーが大挙して出演している謎の映画である。
そもそもの始まりは1985年。
シド・ヴィシャスの伝記映画『シド・アンド・ナンシー』(1986)を監督するなど、パンクロックを愛してやまない映画監督アレックス・コックスは、内戦に揺れるニカラグアで左派政党「サンディニスタ」を支援する為のコンサートを開催し、その記録映画の制作を計画していた。
だがしかし、ザ・クラッシュ(1980年に発売された4thアルバムのタイトルはずばり『サンディニスタ』)、ザ・ポーグス、エルヴィス・コステロ等の参加が決まり、彼らのスケジュールを1ヶ月分確保していたのにも拘らず資金集めが難航してしまい、結局そのコンサートの開催は中止となってしまう。
この時、アメリカは反サンディニスタを掲げるゲリラ組織「コントラ」に資金提供を行なっており(俗に言う「イラン・コントラ事件」。トム・クルーズ主演の映画『バリー・シール/アメリカをはめた男』(2017)を見るべし!)、ニカラグア国内は東西冷戦の代理戦争の様相を呈していた。西側の親玉がコントラに付いている以上、サンディニスタ支援の為のコンサート費用が集まる訳なかったのである。
しかし、そこは転んでもタダでは起きない男アレックス・コックス。企画を180°転換し、彼らを起用した劇映画の制作に舵を切る。わずか3日間で書き上げた脚本を手に資金を調達。確保していた1ヶ月間を利用し、瞬く間に撮影を終了させてしまった。うーん神がかり的なスピードッ✨🌪️
上記の様な経緯があり、この珍品は誕生した。ミュージシャン達のギャラは1人あたりわずか100ドルだったらしいのだが、皆それなりに楽しんで撮影に挑んでいた様だ。良い話しだな〜。
さて、映画の内容はというと…。
カ、カオスッ!!💦「何じゃあこりゃ〜〜!!」と大声で叫び出したくなるほどの騒々しさと行き当たりばったり感。詩情や構成、巧みなストーリーテリングと言った言葉とは無縁の地獄の様な作品である。これその場の勢いとノリだけで作っただろっ!!
イタリア発の西部劇を「マカロニ・ウェスタン」、日本発のものを「スキヤキ・ウェスタン」、他にも『炎』(1975)に代表されるインドの「カレー・ウェスタン」や、『コール・オブ・ヒーローズ 武勇伝』(2016)の様に武侠映画の形を借りた中国/香港製西部劇「ヌードル・ウェスタン」(勝手に命名)、オーストラリアには『マッドマックス』シリーズ(1979〜)という立派な「カンガルー・ウェスタン」(今思いついた)がある。
事程左様に、世界にはそれぞれのお国柄に根付いた西部劇が存在している。では、本作の様なイギリス発の西部劇は何と呼ぶべきか…と言えば、そりゃもう「パンク・ウェスタン」しかないでしょう!
大事なのは上手さや技術よりもノリとテンション、露悪的かつ暴力的、パッと咲いてパッと散る短さの美学、気取り屋には死あるのみ。「ヤマあり、オチあり、されど意味はなし」というパンク精神でブッ飛ばす本作は、正にパンクという概念の映像化に他ならない。
ギャーギャーギャーギャー喧しい?そりゃパンクなんだから当然っしょ。
ラブシーンが唐突過ぎて意味わからん?ジョー・ストラマーと目が合えばそんなもんSEXするに決まってるっしょ。
ストーリーが意味わからん?そんなもん最初から意味なんかないだけっしょ?
とまぁ、この様に普通の映画とは完全に文法が異なる為、一般ウケする訳がない。大半の観客が呆れ返ってしまうのも無理はないかも知れない。
しかし、パンクを愛好する者にとってはまさに「これだよこれっ!!」と思わず膝を打ちたくなる様な傑作。これを理解出来ない奴とは話が合わないし、話したくもない。あっぱれなパンク・ムービーであるっ💮
ちなみに、嘲笑とブーイングで受け入れられた本作だが、あのアンディ・ウォーホルだけはこれを絶賛し、コートニー・ラヴがスターになる事を見抜いていたという。流石ウォーホル、見る目あるじゃん!!…一応確認するけど、ただグレイス・ジョーンズが出てるから褒めた訳じゃないよね?
※このディレクターズカット版には、未公開シーンやデジタル映像処理、新規アニメーションの追加が行われている。オリジナルを鑑賞していないので詳しい事はわからないが、どうやらエルヴィス・コステロが縛られてお姉さん方にイジメられるシーンや、最後に金物屋の親父が骸骨になって蘇るシーンなんかが追加されている模様。撃たれた際の血の量も増やされているし、画面に血飛沫が付着するというFPSゲームの様な演出もこのバージョンから。
追加シーンを含めてもランタイムが90分程度。いや、このタイトさはほんとに素晴らしい👍
長けりゃ良いってもんじゃないのよ。プログレなんてほとんどが退屈っしょ?音楽は3分で、映画は90分で充分なのよ。