「潜入取材に基づき歌舞伎町のガールズバーで働く女性達を哀しくも美しく綴った傑作」天使たち 日吉一郎さんの映画レビュー(感想・評価)
潜入取材に基づき歌舞伎町のガールズバーで働く女性達を哀しくも美しく綴った傑作
傷ついた二人が手を取り合って街へと駆け出した時、それまで猥雑な空気を漂わせていた歌舞伎町のネオン街が、宝石を散りばめたかのように光放つ光景に転ずる奇跡を目にし、感動した。駆け出していく二人の姿を、穏やかなスローモーションで捉えた映像は、天空を舞うかの如くであった。
舞台は新宿歌舞伎町のガールズバーである。そのガールズバーで、高校を卒業したばかりのナル(瀧村仁美)は実家を出るために、大学生のマリア(河野聖香)は奨学金返済のために働いていた。このガールズバーで働く二人を軸に、ドラマは繰り広げられていく。
脚本•監督の木村ナイマは、映画専門学校ではない一般の大学出身で、「天使たち」は大学の仲間達と一緒に撮った作品である。作品に漲る活力の源は、監督自身のガールズバーで働いた経験と、歌舞伎町への潜入取材による生の素材に因るものであり、実体験に基づく生々しくも哀しく映し出されたガールズバーで働く女性達の姿は説得力があり惹きつけられる。また、ガールズバーの女性達の視線を介して正面から映し出された男性客の表情や姿からは、覗き穴から、あるいはマジックミラー越しに、様々な欲望を抱いてガールズバーに訪れた様々な男性陣の本性と滑稽さを垣間見るかのような体験ができて興味深い。
ナルが想いを寄せた男性から裏切られた時、そして、マリアが常連客に一線を越えた関係を迫られた時、直面したその瞬間を期せずして共有した二人が、一緒に歌舞伎町から脱しようと翔び出したのが冒頭に記したシーンである。ここでは、歌舞伎町で働く女性達の羨望の果ての、現実と虚構との間に漂う情念が、見事に映像表現へと昇華されている。
ラストシーンでの、昼下がりのベランダで戯れる二人の姿は、二人の新しい生活の始まりを示唆させる。だが、現実には二人の事情の進展も無いまま、果たして歌舞伎町から離れることができたのであろうか。だから、二人が歌舞伎町を翔び出していく姿は、現実と虚構の合間に漂う情念の灯火のように儚く映るのである。