劇場公開日 2025年8月8日

「繰り返される不条理な世界」アイム・スティル・ヒア アベちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 繰り返される不条理な世界

2025年9月24日
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鑑賞方法:映画館

ブラジルの裕福な家庭の穏やかな日常がかなり長めに描かれる。どのような国でも豊かなる人々でいられるにはそれ相当の理由があるのだろう。軍事政権であっても夫の元議員の肩書きが効いているのかもしれないし建築技師として有能なのかもしれない。妻と5人の子供は何の疑いもなく、ひたすらに幸せそうである。
そして突然、その幸せそうな穏やか日常は軍政府の横暴で破壊される。夫は軍事クーデターで議員資格を剥奪されたりヨーロッパに亡命したりの過去はあるものの逮捕されるほどの罪は犯しているようには思えない。更に妻と次女も事情聴取と称して連行され妻に至っては12日間も勾留されてしまう。軍事政権が恐れるのは共産主義者やテロ組織だろうが民主化を求めるインテリ層は全て敵対勢力なのだろう。だから彼らが行うことは連行した者に仲間を売るように強要する。
軍事政権では、かつての韓国でも今のミャンマーでも同じように彼らの側から都合の悪い人々は排除し殺戮も厭わない。今、権威主義国と言われるロシアや中国でも言論は統制され秘密裏に不満分子は迫害される。更に自由民主主義のアメリカでさえトランプが政権にいる限り彼の意にそぐわない者は追放されてしまう。日本だって検察の横暴で罪なき人を投獄することもある。
つまり、1970年代のブラジルのこの出来事をブラジル政府も歴史上の小さな話としてるようだし、世界のどの国も教訓と捉えてはいないだろう。そして、残念ながら今後もこのような事は世界の何処かで繰り返されてしまう。
だからこそ、映画やドキュメンタリーで記録に残すこと、そしてそれが遍く多くの人々に知れ渡る事は何より重要である。
事件後、生活の維持が難しくなったエウニセは新居予定の土地も売り、家族で暮らした家も手放すことになる。外国の新聞に告発する為に撮った家族写真で皆が笑いながらカメラに収まる姿は名シーンとなっていつまでも語り継がれていってもらいたい。

アベちゃん