「突然夫(父親)を軍事政権に奪われた家族の人生」アイム・スティル・ヒア ゆみありさんの映画レビュー(感想・評価)
突然夫(父親)を軍事政権に奪われた家族の人生
ブラジルでは1964年~1985年まで軍部が政権を掌握していた(軍事政権)。5人の子供をもつルーベンス・パイヴァは元国会議員であり、軍事政府を否とする反体制の運動家でもあった。そして1971年彼は何者かに突然連行される。結局彼は妻と5人の子供たちの待つ家族のもとに戻ってくることはなかった。夫の安否を気遣う妻の苦しみ、父親を失った5人の子供たちの悲しみが描かれる。妻は夫の生存を信じ、ただ帰りを待つだけでなく、さまざまな手を尽くして夫を捜し軍事政府にも抵抗の姿勢を示す。しかし、何の手がかりも掴めぬまま、パイヴァ家は生活のために当時首都だったブラジリアにある海辺の家を売り払い、妻の実家のあるサンパウロに引っ越す。友だちと別れ、優しい父親との思い出の詰まった家を離れる子供たちの悲しみは胸を打つ。
そして時は流れ軍事政権は崩壊する。
家族はルーベンスなき後、自分達の人生を健気に全うする。妻はサンパウロで大学の教授として教壇に立っている。長男は作家として身を立て、娘たちもそれぞれに家庭を持ち平穏な生活を手に入れている。そして政府は20年越しにルーベンス殺害を認める。
強引な手法、力で一国の運営を担う軍事政権の恐ろしさと翻弄される市民。この映画は実話として一つの家族にスポットをあて、その残酷さを我々に伝えている。
力で物事を進めようとする人達は、多くの選択肢の中から、最も過激な方法を選択する。少しの間違いも犠牲もやむ無しとする。軍事政権の恐ろしさを改めて実感した。この世の中から軍事政権がなくなることを祈らずにはいられない。