「南米の歴史に学ぶ、強くて硬派な作品」アイム・スティル・ヒア mayuoct14さんの映画レビュー(感想・評価)
南米の歴史に学ぶ、強くて硬派な作品
『アイム・スティル・ヒア』は、そのタイトルのとおり、静かな闘志で連帯し、決して暴力に屈しない、自分のしなければならないことを全うする主人公とその家族を描いた、強くて硬派な作品でした。
日本だと家族ものの側面でセンチメンタルになってしまう場合もあると思いますが、そこはラテンアメリカの持つ明るさや強さを打ち出した、そういう独特な味わいのある、優れた作品でした。
個人的には、80年代に劇場で見て衝撃を受けた『サンチャゴに雨が降る』や『ナイト・オブ・ペンシルズ』といった、やはり南米の圧政を描いた作品を鮮やかに思い出しました。
1970〜80年代の南米は悲劇と激動の歴史があります。
エヴァ・ペロンの時代の後に到来する、1970年くらいからの一時代は、、「汚い戦争」と言われていたアルゼンチンの暗黒時代です。
(この「汚い戦争」を描いたのが『ナイト・オブ・ペンシルズ』という映画です)
チリも、ピノチェト政権下での民衆がこれでもかと激しい弾圧を受けていた時代です。
ブラジルはチリやアルゼンチンよりはマシだったようですが、70年代〜80年代にかけては軍事政権下での言論統制あったようです。
この映画で見る、主人公の夫が突然軍部に逮捕され二度と会えなくなり、自身も12日間拘留・尋問される場面は、激しい暴力少なめでも本当に恐ろしく描かれていて、「何をされるかわからない」恐怖に戦慄します。
その恐怖を乗り越えて、最愛の夫の最期を確かめようとする、権力の横暴に最後まで立ち向かおうとする、主人公の強さに胸を打たれます。
一つだけ注文をつけるなら、前半の家族の楽しい時間を描く部分が少し冗長で、ここはもう少しコンパクトにして、全体を2時間弱くらいにしても良かったのではないかと。
つくづく思うことですが、どこの国でも、軍隊が力を持つと民への抑圧や暴力が避けられず、悲しい歴史が作られてしまいます(日本の戦時中もそうだったように)。
歴史に学ぶことを忘れずにいる必要があります。
