「家族写真は笑顔で。」アイム・スティル・ヒア tenさんの映画レビュー(感想・評価)
家族写真は笑顔で。
事前情報無しで観ることをおすすめしたい。
軍事政権下の国では今でも当事者がいるだろうし、過去の有耶無耶にされた事件の真っ只中にいる人達もいる。平和な日本に暮らしてきた自分の能天気さを思い知らされた。強制失踪だなんて言葉も知らなかった…。
父の死亡証明書を勝ち取った夜。お酒を飲みながらマルセロとエリアナは『いつパパが戻ってこないと悟った?』と初めて話す。しんみりした雰囲気ではないのに、これまで簡単に話題にできなかった永い年月を想って涙が。
写真やビデオ映像がとても効果的に組み込まれていた。
忘られないのは記事用の家族写真を撮るシーン。
『悲しそうに』というカメラマンとは対照的に『みんな笑って!』というエウニセ。母として妻として人としての決意を表した笑顔にグッときた。
25年後にビーチで撮った写真を『いつ撮った写真だっけ?』と語るシーンにも涙。
記録は残っているのに人の記憶は曖昧なもの。
2人の子供は思い出せず、問われたエウニセは『ヴェラの誕生日』と答える。
その後エウニセは書斎でルーベンスの様々な記事をまとめたノートを読みながら闘いの日々を振り返る。ノートを閉じた後、あのビーチの写真の裏に『ヴェラの送別会』とハッキリ記す。あの幸せな日を思い出せたのだ。涙涙涙。
観たい映画はあまり事前情報を入れないので、ラストあたりの描写には鳥肌と感動の連続。まさか実話だったとは。あの家族写真が実在しているとは。マルセロが書いた本が原作だとは!
非常に社会的なテーマながら、家族の美しい姿が希望として余韻に残る。ビーチで子を見守る父と母。幸せなアイスクリーム屋の夜。年老いた母を愛しむ子供たちの眼差し。確かに家族がいた空き家になったあの家。時折現れる暖かいリオの海は、ロンドンやサンパウロの街と対比してキラキラと輝いていて、幸せな家族の原風景そのものだった。
