ブルータリストのレビュー・感想・評価
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登場人物みんな業が深い、巨大建築の3時間35分
建築家の映画って事ぐらいしか知らずに観に行ったんやけど…
映画館の入口の前に、「この映画は途中で15分間の休憩が入ります。休憩中はスクリーンの撮影OKです。」ってな事が書いてあるやん。
えっ!?この映画ってそんなに長いの?
知らなかったけど3時間35分もあるよ。
まあインド映画は普通に3時間あるから、そんなに上映時間は気にならないけど…。
(インターミッションって、昔ならアイス売りが来る時間)
とても映画らしい映画、美しく重厚。
ビジネスと芸術、パトロンと芸術家、嫉妬と葛藤。
出てくる人全員、業が深いわぁ。
人には薦められないけど、観ておきたい映画ってあるのよね。
モダニズムとは何か
2024年。ブラディ・コーベット監督。ナチスドイツの迫害を逃れてアメリカに渡った著名なユダヤ人建築家が、不幸な境遇から這い上がっていく姿を丁寧に描く。一流の腕とセンスを持ちながら、親友に裏切られ、パトロンに振り回され、やっとアメリカに呼び寄せることができた妻は病に侵されていて、、、。
権力の塊のようなパトロンに見出され、次第に自らもその似姿になっていく主人公の姿には痛々しいものがあるが、主人公が構想する建築物と主人公の魂のあり方がいまいち説明不足な感じ。なぜあのような建築物を作ったのかの説明が、ユダヤ人の出自や妻の強制収容所体験といった「外面的でわかりやすい」説明のもとに回収されている。モダニズム建築を求める何か、もっと荒々しい心の叫びのようななにかが、あのコンクリート打ちっ放しの巨大建築物にはみなぎっているような気がする。そこはあえて不問にしたのかもしれないが。
才能ある「アーティスト」と「現実の権力」(金や生活)との相克、人生の不如意の話であり、具体的なモダニズム建築のありように迫っているわけではない。
感動的な再会のその後
インターミッションがあって助かった。
もしなかったら座席が悲惨なことになっていたと思う。
「絨毯の方がまし」と怒られそう。
タイトルクレジットがオシャレ。
見たことない感じ。
芸術がテーマなだけある。
冒頭から「子供には見せられません」な場面から始まって、「この映画は大人向け」と宣言してくる作り。
重厚な人間ドラマで、大衆向けではないけど、こういうのが好きな映画ファンは多そう。
前半は「どんなに建築家としての才能があっても仕事がもらえなければホームレスと同じ」というシビアな話。
ただ、才能はあるので、一度才能を認めてもらえた後は順風満帆で、前半は可もなく不可もなく。
インターミッション後、数年が経過したところから再開。
ここから一気に面白みを感じた。
前半の会話中に出てきた人物が後半から登場するが、「なんか思ってた人と違う」感が凄い。
勝手に理想化していたこっちが悪い。
悲劇的な運命で引き裂かれた恋人が苦難の末に念願の再会、なんてしたらその後はハッピーエンドになるのが普通の映画だと思うが、この映画はその後がリアルに描かれていくのが興味深かった。
よくよく考えたら、ホロコーストを生き延びてアメリカへ渡ってまず最初に風俗に直行するような夫なわけで、年老いた妻と感動的な再会を果たしたとしても、恋愛感情が昔のままではない場合があっても不思議ではない。
人生がうまくいくかどうかは金持ちの機嫌次第という展開は、トランプ大統領再選後のアメリカと通じるものがあり、憂鬱な気分になった。
1950年代当時には早すぎたかも知れないブルータリズム建築様式の第...
1950年代当時には早すぎたかも知れないブルータリズム建築様式の第一人者のユダヤ人が、あたかもアメリカに実在してたかの様な不思議な映画。
「何んで こんなシーン入れたんだろう?」と何回か思った。バスタブに◯◯する、忍び足で後ろから近づくとか。後、不思議な音楽の使い方も特徴的。
そして奇抜なオープニング、奇抜なエンディング。
撮影も特徴的で上下逆さまの自由の女神像が直ぐに横向きに写される、歩く主人公の背中をひたすら追うカメラ、走る自動車や列車の目線、長い尺の映画なのに "省略" して観客に「どうして そうなった?」と想像させる。
私が観た回(12:10 - 15:50)は結構観客が多かった 珍しいビスタビジョンのフィルム撮影映画。
映画館で集中して見るべき作品。
※100分 → インターミッション15分 → 100分 (休憩中の15分の画面は撮影がOKで家族写真とカウントダウンがある)
※休憩中に読む冊子がもらえる
※ブルータリズム:コンクリートやレンガなどの素材をそのまま使用し、装飾を極力排除した建築様式
壮大などんでん返し
毎度お馴染みのナチス物。今年は「リアル・ペイン 心の旅」に続いて早くも2本目でした。
そんな本作の特徴は、何と言っても3時間35分というインド映画ばりの上映時間の長さ。近年劇場で観た映画の最長は「アイリッシュマン」の2時間29分、続いて「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」の2時間26分だったので、恐らく自己最長記録と思われます。ただそれら2作は休憩なしのぶっ通し上映だったのに対して、本作は途中15分の中入りがあり、トイレの心配もなく観られたのは幸いでした。
肝心の内容ですが、ハンガリー出身の実在のユダヤ人建築家であるラースロー・トート(エイドリアン・ブロディ)が、ナチスの迫害を逃れてアメリカに渡り、そこでも辛酸を舐めながら自分を貫き通して建築家として名を残すまでの半生を描いたものでした。
ペンシルバニアに辿り着いたトートは、最初従兄弟を頼って本職の建築の仕事を始めたものの、客からのクレームというか契約違反が原因で金を支払って貰えないという理不尽の結果、従兄弟とも決別。その後は日雇い仕事で糊口を凌いでいたところ、以前クレームを付けて来た大富豪ハリソン・ヴァン・ビューレン(ガイ・ピアース)に建築の才能を見出されてビッグプロジェクトを任される。でも芸術家気質の主人公は周りと調和が取れず、大富豪とも最終的に決裂。
また、後半になってヨーロッパに取り残されていた妻エルジェーベト・トート(フェリシティ・ジョーンズ)が姪っ子とともにようやく再会を果たすものの、夫婦仲はしっくりしなくなっていく悲劇。それでも妻は最後まで夫の側に立ち、寄り添っていたのがせめてもの救いでした。最終的に建築物が完成し、ラストは一応ハッピーエンドでした。
以上、祖国でもアメリカでもぶっ叩かれて半ば精神的におかしくなってしまった主人公・トートの物語でしたが、とにかく音楽や映像が特に素晴らしく、筋や役者の演技を際立たせていました。トートが作ったマーガレット・ヴァン・ビューレン・コミュニティーセンターの造形美は、画面を通してすら荘厳さが伝わってくるほどで、また大理石の採石場の場面なども、まるで異界に行ってしまったような浮遊感があって素敵でした。主演のエイドリアン・ブロディの演技も真に迫っていたし、彼を称賛し、嫉妬し、蹂躙した大富豪ハリソンを演じたガイ・ピアースの”アメリカらしさ”を地で行く演技も良かったです。
前述の通り、途中15分程の休憩を挟んでくれたことや、物語の展開が非常にテンポが良かったこともあり、3時間35分の長丁場も案外あっという間でした。
で、最後までトートが実在の人物だと信じて疑わなかった私ですが、鑑賞後に入場時に配られた「建築家ラースロー・トートの創造」という冊子を読んだら、なんと「本書の内容は一部を除きすべて架空の内容です」とのこと。まんまとブラディ・コーベット監督に騙されてしまうという壮大などんでん返しに、非常に驚いた次第です。
そんな訳で、本作の評価は★4.6とします。
215分は長く感じなかった
アメリカ映画は生きていた
空白の時間
全編に流れる薄明るい映像、彼の半生、彼の作品、タイトル、エンドロール・・・ 一貫したデザインが美しくも冷たい
第二次世界大戦後のアメリカを舞台に、ハンガリー系ユダヤ人の建築家ラースロー・トートの30年にわたる数奇な運命を描く。
来場者特典として配られたリーフレットから実在の人物かと思いきや架空の存在だったラースロー・トートは、同様の運命をたどったであろう人々の象徴として創造される。
15分のインターミッションを挟んだ前半・後半ともに100分という構成もまた建築の対称物のようだ。
さらにこの長さも、ラースローの半生を感じさせるために必要だった十分な長さである様に感じる。
彼がデザインしたとする家具から建造物、スタイリッシュなタイトルやエンドロールのタイポ・グラフィ、逆さまな自由の女神までもが彼の作品の美しさを表して、映画で描かれる、歓びが少なく常に苦悩に満ちて冷たい半生もまた彼の作品を思わせる。
統一された印象が薄明るく美しい。
大事なのは到達点であって旅路ではない
やっぱり長い
小冊子「建築家ラースロー・トートの創造」
第97回アカデミー賞において10部門にノミネートされている本作。以前はスカラ座だったTOHOシネマズ日比谷のSCREEN12(東京宝塚ビル地下)は同劇場最多座席数の大きな箱ながら、平日の割にそこそこの客入りで作品に対する注目度の高さが判ります。
本作の監督、ブラディ・コーベット。今作で初めて「アカデミー賞監督賞」にノミネートされたわけですが、彼のフィルモグラフィーでを過去の監督作品を確認すると『シークレット・オブ・モンスター(16)』『ポップスター(20)』となかなか個性を感じさせる2作品。そして本作でも裏切らず「いろいろと戸惑わせてくれる作品」に仕上がっています。
まず入場時に配られた小冊子「建築家ラースロー・トートの創造」。鑑賞前にあまり情報を入れないようにしている私は、それを見るともなしにサッと目を通してバッグに仕舞い込み、これから始まる長丁場に備えます。なんせ、本作の上映時間は215分。ただ、本作は大きく2部構成となっており、開始から1時間40分ほどで1部が終って15分のインターミッション(途中休憩)が入ります。その間は客電も点き、スクリーンにはカウントダウンも表示されるため落ち着いてトイレ休憩も可能。高揚感たっぷりで終わった1部のことを考えつつ、本作の主人公ラースロー・トート(エイドリアン・ブロディ)に興味が湧き始めた私。そういえばと思い出し、改めて例の小冊子に目を通します。そうこうしているうちにカウントダウンは1分を切り、再び小冊子を仕舞って2部に控えます。実は「劇場でのインターミッション初経験」の私、再開後の2部にすぐ集中できるか若干の不安もあったのですが、、2部の冒頭で早速、1部で出演のなかった「あの人」の登場シーンに、流石の存在感と演技力にすっかり涙腺を刺激された私。そこからは、1部以上に波乱万丈が続き「果たして、ラースロー・トートはこの偉業を成し遂げるのか?」心配がやまない展開。で、全て観終われば幾つか冗長に感じるシーンもなくはないのですが、215分の上映時間はインターミッションの効果もあって案外長くは感じませんでした。
そしてすっかりお昼のピークタイムが過ぎ、いつもは行列のできるラーメン屋に待ちなしで入店。この時点で本作を「建築家ラースロー・トートの伝記映画」と勘違いしている私、配膳を待つカウンター席にてWikipediaを検索、、ん?該当がない??。。何でだ?と思いながら改めて「小冊子」を出し、今度は注意深く目を通してようやく気付く小さな級数の注記に目を凝らすと…「本書の内容は一部を除き全て架空の内容です。」何と、全て創作だったとは。。。まぁそれを知ると、本作(特にエピローグ)に強く感じるシオニズムに対し、どうしても「今起きていること」が引っかからずにはいられないのですが、唯一無二の作品性と役者達の素晴らしい演技に対する高い評価は納得の一言。騙されたことも含め、すっかり楽しみました。いやはや参りました。
商業映画としては実に含みをもたせた展開。安易な解釈を許さない。
世に難解な映画はたくさんあるがこの作品は別に難しくはない。観るのが苦痛になるといったところもない。でもこれほど異様な展開で進行する映画もあまりなくて全く先が読めなかったし観たあとでも腹落ちがなかなかしない。
入場時に「建築家ラースロー・トートの創造」と名打ったリーフレットをもらえる。映画のサービス品であるのだが美術展で配られるリーフレットと同じ体裁で、トートが設計したマーガレット・ヴァン・ビューレンコミュニティセンターの概要やその美術的位置づけを写真入りで解説してある。でもこれは全く架空のものなのである。そうこの作品は実在もしくはモデルがある人物の評伝ではなく完全なオリジナル脚本によるフィクションである。科学者なり芸術家の「業(ごう)」みたいなものを描いているという点では「オッペンハイマー」に似ているんだけどね。アイデアの素みたいなものはあったんだろうけどまさかこれがオリジナルだとは、と原作本、漫画があって当たり前の邦画を見慣れている日本人観客としては思うのです。
ところで、パンフレットには書いてあるかもしれないけど「Brutalist」の語源の話です。意味としては1950年代に英国のAlisonとPeterのSmithon夫妻が提唱したコンクリート打ち放しでそのテクスチャーを活用した建築家のことです。だからフランス語の「beton brut」〜生(き)のコンクリート〜からbrutを取り、同じような傾向の建築家をbrutalistと呼んだようです。建築様式としては割とすぐにモダン建築(ほらル・コルビジェや丹下健三なんかの)に吸収されたようだけどね。英語のbrutal(野蛮な)とは語源が一緒なのかもしれないけれど多分そちらではない。
ところでトートは自分は「Brutalist」だとは一言も言ってないし、まわりからそのように言われている場面もない。バウハウス出身だから流れとしてはそちらではあるんだけどね。ただこのbrutというのはトートの性格を表しているんだと理解することもできる。つまり純粋だとか、世間知らずだとかそういう意味で。
そうこの映画が予想できない展開になるのはトート自身の考え方や行動の傾向が全く予想できないから。周りのハリソン・フォンビューレンや妻のエルジューベトのような個性の強い人に引っ張られ右往左往しているだけのようにみえる。そして脚本上の仕掛けとしては、建築家だけに建築物に彼の思想は凝縮されているということで映画の最後にヴェネツィアで開かれる建築ビエンナーレでもはや身体がいうことのきかない彼に代わり姪のジョーフィアが種明かしをする。ここでホロコーストの記憶を残すこと、希望への足がかり、妻への愛などが建築の思想として披露されるが彼自身の発言でないから本当のところは分からない。私には彼が造ったたものは、彼自身を(そしてハリソンも妻も)永遠に閉じ込めておく牢獄に見えたけど。ホロコーストの傷跡というものは人の心の中で再生産されていくんだということなのかもしれないね。
最後に「Brutalism」のことだけど、建築様式としては過去のものにはなったがデザインの世界では生き残っているようです。例えばネットサイトのデザインなんかに。この場合は、非対称であるとか、文字だけ、写真だけといった素材の少なさ、バックを黒白一色にするとかが特徴になるようです。つまりこの映画のタイトルバックやエンドクレジットは「Brutalism」のデザインということです。凝ってるよね。
アカデミー賞大本命の理由が分からん
到達点を見据えた人生
壮絶な体験をかい潜り、生涯を通じて自身の信念を貫いた建築家の歴史。所々でみられた車両、列車、ゴンドラが突き進む様子を乗っている人の目線でみせた描写が、彼が邁進した生涯を象徴していたでしょうか。
途中、離れて暮らすことになる妻から「狂気に呑み込まれないで」と懇願された主人公が印象に残りました。そして、まんまと呑み込まれてしまったか…と落胆させられる後半。しかし、それは勘違いであったとエピローグで気付かされます。彼は、「なぜ建築家になったのか」という問いに明快に答えた、あのときの想いからブレることはなかったし、あのときの彼のままで生涯を奔走していたのでした。
エピローグの終わり方が爽やかで気持ちよく鑑賞を終えられました。30年ほど前に鑑賞した「ダンス・ウィズ・ウルブズ」の4時間バージョンを観て以来の長編でしたが、作品自体もスタイリッシュであったせいか、あっという間のエピローグでした。
そして、「決断の街」を舞台にしたこうした歴史が、「フィラデルフィア」につながってるのか等と感慨にふける、そんな作品でした。
ホロコーストを生き残り、アメリカへ渡った建築家
最近の映画では珍しく途中休憩あり。
インターミッションにもBGMと環境音があり独特な雰囲気。
【前半】
導入のスタッフロールで映されるシンプルながら美しい映像と洗練されたキャプション、将来への希望と不安を感じさせる音楽からセンスが溢れる。
心地よい間で進む会話のどれもがどこか品と情緒を兼ね備えている。
謙虚で脆く、芯があり不器用な人柄に危うさを感じつつ、この先を心待ちに前半を終える。
【後半】
建築や景色は特定の時代を表す普遍的な存在として語られる。数多くの定点映像が作品内に映されるが、その意味が後のスピーチに繋がる。
ラストシーンの演出には思わず拍手してしまいそうになる程感服させられた。
眠っていた感性を起こさせるような極めて鋭い刺激的な作品。
単調なようで企みたっぷりな知的好奇心を揺さぶられます
まあ冗長なのは確か、なにしろ3時間34分でたった一つの建築物の設計から完成までのみを描くのですから、波乱万丈の半生とは程遠い。ましてやユダヤ抹殺の激動の悲劇の感動作とは真逆ですらある。おまけに製作費節約のためか、やたらアップのシーンが多く、要するに背景セットを省けるからか。しかし、だからツマラナイとはならないのがミソ。役者上がりの監督ブラディ・コーベットはどう見てもユダヤ系には見えず、建築様式としてのプロセスにこそ興味があったのではないか。
ナチの迫害を受け収容所から命からがらにして脱出、渡米。数多の苦労を経て建築家として名を遺す、ってのがストーリー。ポイントはブルータリズムと称される装飾を排除した武骨なスタイル。コンクリート剥き出しの建築物って言えば日本の昭和の建物に多いですよね、市役所とかに。力強いけれど荒々しく洒落っ気なし、構造的デザインが命みたいな。この言葉から連想されるのが「ブルータス」ですね。マッチョであり男臭く残忍でもある。まさに二つの言葉は派生語の域で、タイトルの「Brutalist」はそんな野郎と解せばよろしいのではないか。
ならば本作におけるブルータスな野郎と言えば、助演男優賞にノミネートのベテラン役者ガイ・ピアースであり、助演ではなくタイトルロールと言っても差し支えない暴れん坊ぶりなんですね。大金持ちの気まぐれに留まらず、建築家を翻弄するハリソンを、彼(ガイ)史上最高のイケメン装いでタイクーンのように振る舞う。しかし、対するラースロー・トートとても相当なブルータスなのが本作の曲者ぶりでしょう。全面的被虐でもなく、頑固一徹なのが本作の縦軸として貫いています。
で、メインの男2人がマッチョイズムが強ければ強い程、却って浮かび上がるのがゲイ要素なんです。決して比喩でもなく、米国に到着早々に売春宿に出向くラースロー、帰りがけ女将から「肌の浅黒いハンサムボーイもいるよ」と誘惑するも、もちろん「その趣味はない」と言うシーンがわざわざ挿入され、咄嗟に?が私の頭を過る。やっと再開出来たとは言え、従弟とのハグの長すぎる異様、相棒然と面倒をみてやる黒人の親子、その大人ゴードンとはドラッグを共有する濃すぎる間柄。などなどの伏線の挙句のハリソンの暴走が描かれる。マッチョ信仰の裏返しが本作の横軸なんですね。
そうは言っても本作の異性とのラブシーンもかなり濃厚に描かれ、アカデミー賞女優のフェリシティーのヘア(本人かどうかは不明)まで映るわけで。当時の怪しげなブルーフィルム(多分本作のための撮影フィルムでしょう)の画面まで登場。なにより妻エルジェーベトが米国に到着した最初から、エルジェーベトはラースローにセックスを激しく要望する程に。生き様として性が積み重ねられるが、あくまでも前述のハリスンの支配欲に収斂させるためでしょう。
本作はタイトルから、肝心の建造物の連写、そしてエンドタイトルにいたるまで相当にスタイリッシュなのがポイントです。なにより劇伴奏が凝りに凝って、全編アグレッシブにオーケストラが鳴り響く。音楽が実に饒舌で、退屈な長廻しシーンに多用され効果を上げています。だからアカデミー賞に撮影も作曲も当然のノミネートですね。やっと辿り着いた自由の国、ニューヨークの自由の女神が何故か斜めの角度でしか描かれない作為が計算の上なのですね。
映画モギリで配られるリーフレット。ラースロー・トートの略歴が記載されてますが、なんと写真がエイドリアン・ブロディ。あれれ? ご本人ではないの? これがまた本作の仕掛けとは! 要するに実在の人物ではないのでした。ビエンナーレの表彰式まで描くものだから、てっきりですよ。もちろん近いモデルの著名人はいたようですが、エキセントリックなコンテンツゆえ、架空の人物に据えたのでしょうね。でも最後の種明かしである「収容所をイメージしてのデザイン」である事こそ本作の肝ですから。
「戦場のピアニスト」でオスカー獲って、再びユダヤを全面に押し出した役で二度目のオスカーも濃厚なエイドリアン・ブロディ。見事なユダヤ鼻が強烈な彼の名演によって、架空が真実に昇華されられた。対する妻役のフェリシティ・ジョーンズはなんと前半は全く登場せず、15分間の休憩のあとの後編にやっと登場ですが、流石の貫禄を見せつけます。
25-029
自由と奴隷は紙一重の違い
昔の長尺モノは
インターミッションが設定されている作品も多かった。
そして、その途中休憩の間に趣向を凝らす場合も。
例えば〔レッズ (1981年)〕。上映時間は194分。
場内が明るくなると〔インターナショナル〕が流れる。
まさしく作品に合致した楽曲。
一方、直近で観た〔聖なるイチジクの種〕は
167分あっても設定はされていない。
そして、本作。
15分のインターミッションを入れて215分。
で、その間には、作品の一場面を象徴する
結婚式の家族写真がスクリーン上に投影され、
デジタルタイマーが時を刻む。
音楽や効果音は流されるものの、
もうちょっとの工夫は欲しかったところ。
タイトルの〔ブルータリスト〕は
「ブルータリズム」の建築家の意。
鉄筋コンクリートを多用した無骨で機能的な造形が特徴で、
1950年代に流行した。
主人公の『ラースロー・トート(エイドリアン・ブロディ)』は架空の人物も、
ハンガリー系ユダヤ人で
モダンなデザインを確立した「バウハウス」で学んだ建築家との設定。
「バウハウス」は勿論、ナチスにより閉校されている。
『ラースロー』はホロコーストを生き延び、
アメリカに渡る。
しかし、妻と姪は欧州に留め置かれたまま。
富豪の『ハリソン(ガイ・ピアース)』の知遇を得、
彼からの依頼で大規模なコミュニティーセンターの建設に挑むが
多難が次々と襲う。
嵩む建設費や資材を運搬している列車の事故。
施主の『ハリソン』に振り回され、
工事は度々の延期や中止の憂き目に。
しかし、『ラースロー』は自身の報酬を注ぎ込んでも、
憑かれように建物の完成を目指す。
酒と麻薬に溺れながらのその姿は、
鬼気迫るとの表現がピンと来るほど。
冒頭、移民船がエリス島に着き、
客室から甲板に出た主人公が目にするのは
何故か逆さまになった「自由の女神」像。
その意図するところは何か。
自由の国、誰もが成功者となれる可能性のある国は、
必ずしも万人に開かれているわけではなく、
社会的な差別や偏見が厳然と存在し
『ラースロー』はそうした悲哀も味わう。
とりわけパトロンとの関係性は
終生彼を苦しめる。
最後のシークエンスで
彼が心血を注いだ「マーガレット・ヴァン・ビューレン
コミュニティーセンター」の設計思想が明らかに。
小さい部屋を幾つも作った理由、
天井高の訳、
異様さを感じる四つの塔の背景、
地階の廊下で建物を繋げた思想、
何れもが、ナチスの迫害に起因していた。
一人の男の伝記ドラマと共に
反ホロコーストの意匠も潜めていたことが、
言葉を以ってして我々に伝わるのだ。
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