「「自分の死」を、自己がコントロールする権利」ザ・ルーム・ネクスト・ドア 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
「自分の死」を、自己がコントロールする権利
知的、合理的、情け容赦がない、孤高、
そんなイメージのティルダ・スウィントンが主役です。
湿っぽくもお涙頂戴になる筈がありません。
元NYタイムズの戦場従軍記者で、ボスニアやイラクを取材した
マーサが癌になり療養中。
その情報を、作家のイングリッド(ジュリアン・ムーア)は、
自身の出版記念サイン会で、友達から知らされる。
早速見舞いに行き、旧交を温める。
子宮頸がんのステージ3で、抗癌剤治療の途中であると聞き、
励ますのだった。
しかし次に見舞いに行くとマーサは抗癌剤治療の成果がまったく
なかったことを怒り、治療を後悔していた。
「やはり、自分の勘の通りにすれば良かった・・・」
そして、暫くして、マーサはイングリッドに、ある頼みを話す。
ネットで劇薬を手に入れていて、頭がはっきりしているうちに、
薬を飲んで自殺する。
それをマーサに見届けて・・・と、
隣の部屋にいてほしいこと、
“ドアが閉まっていたら、それが決行した合図よ!!”
と、頼むのだった。
癌の治療を見聞きしていると、再発して骨や脳に転移して、
苦しんでしかも治療費や保険の利かない注射に大金を使い、
結局は苦しんだ挙句に闘いに敗れる。
「自分の死」なんだから、主導権は自分が握りたい、
そう思うのも自然なことだと思います。
マーサが言います。
もう楽しいことが何もない、
化学治療のせいか、頭がすっきりせず、
★本も読めない、
★文章も書けない、
★音楽を聴いても虚しい、
★映画も楽しめない、
(私も映画が面白くない・・・そうなったら生きていたくないかも)
マーサが癒されるのは、鳥のさえずりだけ・・・
自殺を決行するために借りた家は、超モダンな邸宅。
外観はなんとも歪で、窓枠が四方八方を向いている。
しかし広いガラス窓にウッドデッキが、とても美しい。
マーサはイングリッドに、剃りの合わない自分の娘ミシェルの事を
語る。
ミシェルは母が秘密にしている《自分の父親》を知りたがったこと。
殆ど産みっぱなしで、子育てを親任せにして、
自分は戦場を飛び回ったこと。
自殺した後の警察への対応や遺産のこと。
甘さや装飾のない削ぎ落とした個性のティルダ・スウィントン。
女性らしく瑞々しいジュリアン・ムーア。
原作はイングリッドの小説らしい。
ペドロ・アルモドバル監督も年齢を重ねて、成熟した印象です。
それまでのホモセクシャルの立場から性的マイノリティの
過剰なテーマから、人間の本質を見つめる作風に変化した印象です。
テーマは終末医療へのアンチテーゼだと思いました。