「尊厳のある死を望む」ザ・ルーム・ネクスト・ドア クックーさんの映画レビュー(感想・評価)
尊厳のある死を望む
なんとなく海外映画が見たいなと思いちょうど始まっていたこちらを拝見。
自由奔放に生きてきた、だから死ぬのもただ座して待つのではなく自ら選ぶ。
そういう女性の話。
物語としては淡々と進んでいき、別にどんでん返しがあったり大盛り上がりのクライマックスがあったりはしません。あらすじや公開前の紹介内容が全てです。その紹介に興味が持てる人なら満足するだろうし、ピンとこない人は見に行ってもピンとこないと思います。
あらすじ通りの話が淡々と進むだけではあります。
どこまで書いたらネタバレなのかもよくわからないのでネタバレありにしときます。
死を選ぶとは言ってもやっぱり劇中の描写から見る限り強がりや周囲への説得的な面が強く、女性自身も全てに納得がいってるかというと、そうでもありません。
そもそも死ぬ時に近くに誰かがいてほしいというのがそれを端的に表しています。
自由に生きてきた結果、人生の中で色々なものを切り捨ててきた。
死の間際に立った時、自分の周囲に残されたものの少なさに愕然とし、人生の中で関りを持った友人たちを頼る。
紹介を見た時は昔見た「海を飛ぶ夢」という映画を思い出しました。
ただ、「海を飛ぶ夢」は尊厳死が強いテーマ性としてありましたが、
本作はどちらかというと、「孤独死」がテーマだったと思います。
孤高に生きた女性の孤高な死に方、ではなく、
どんなに自由に生きてもやっぱり最期は人として社会との関りを実感したいという欲求からは逃れられなかった、と受け取りました。
独身おじさんの私にとってもものすごく身につまされる話でした。
自分の死に際して悼んでくれる人達がいるだろうか…病室でただただ衰弱し、医療従事者達の業務処理の一環くらいに淡々と自らの死が流されていくのだろうか…
若き日の自分を知る誰かに看取られて逝きたいという彼女の悩みと計画はものすごく突き刺さりました。
確かに看取ってくれる家族がいなかったら友人たちに囲まれて楽しい旅の中で思い出を振り返りながらぽっくり逝けたら理想だよなぁ…とは思います。
現実には絶対実行できませんが。
実際はマーサはもっとやりようはあったと思います。
娘との確執は解こうと思えば解けたはずで、とはいえ死ぬ前だけ母親面して看取ってくれとは言いづらい、という悩みもわからないではない。ただそれは本来マーサ自身がきちんと清算すべき人生のツケだったと思います。
結局巻き込まれたイングリッドは相当面倒事になってるし。
イングリッドがマーサが人生に残したツケの清算を押し付けられた形になっているのは否めない。こんな面倒事引き受けてくれたんだから相当お人好しだよイングリッド。変な悲観論者の元カレ引きずってないで前向きに生きてくれ。
そういう意味ではマーサは死の間際まで周囲を巻き込んで好き勝手に生き抜けたと言えるのかもしれません。
現代法治国家では到底容認されない計画ではありますが、こういう選択も理想のひとつとして確かにあるという一石を投じていると思います。
死生観という点では特に目新しいものはなかったですが、今際の際でもこういう足掻き方もあるんだなぁという気付きを得られたので良い映画だったと思います。