劇場公開日 2025年1月31日

「瀕死の左派(🟦)に寄り添う保守(🟥)」ザ・ルーム・ネクスト・ドア かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5瀕死の左派(🟦)に寄り添う保守(🟥)

2025年2月7日
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2004年公開のスペイン映画『海を飛ぶ夢』でも“安楽死”を肯定的に描かれていた。海の事故が原因で四肢麻痺に陥った男(ハビエル・バルデム)が自死を選ぶ感動ストーリーだ。本作のティルダ・スウィントン演じる元戦争記者マーサも、末期ガンにおかされ最期に自死を選ぶのだが、「一人で死ぬのはいや」とそのためにわざわざ別の家を借り、友人の作家イングリッド(ジュリアン・ムーア)を隣室に寝泊まりさせ、自分の死を看取らせようとする....

どこかの誰かさんがアルモドバルの作品は“政治的”ではないと語っていたが、けっしてそんなことはない。この人若い時からフランコ独裁政権に反抗していた強者で、政治的束縛を嫌った自由を描いてきた映画監督なのである。この映画にも、地球温暖化を危惧する大学教授でマーサとイングリッドの昔の恋人ダミアン(ジョン・タトゥーロ)が登場し、「新自由主義と政治の極右化が地球滅亡の最たる原因」という自説を披露する。おそらくアルモドバルは、世界一の金持ちイーロン・マスクとは真逆の考えの持ち主なのだ。

そのイーロンとタッカー・カールソンのインタビューの中で「リベラルは反出生主義思想に汚染されている」とイーロンが語っていた。ショーペンハウワーやシオラン、古くはゴータマ・シッダールタや日本の太宰治もおそらくは反出生主義者であろう。LGBTQ差別反対に子供の人身売買、女性の社会進出を助長するフェミニズムや中絶賛成、すべての生命の源といわれる炭素の排出規制....イーロンによると、これらリベラルの主張に共通する思想が反出生主義だというのだ。

生めや増やせやの大号令下、人口増加=経済発展だった一昔前とは違って、ここもとの人口爆発がむしろ足枷となって経済衰退を招くことがだんだんとわかってきたのである。コロナ禍などはまさにその最たるものといってもよいだろう。しかし人権擁護を旗印にしてきたリベラルにとって「推しの政策は実は人口削減のため」とは口が裂けてもいえないのである。ましてや、この映画で大変美しく描かれている“安楽死”の合法化など、やりたくてもやれないまさに禁じ手なのである。

そんな禁じられたテーマ“安楽死”をとりあげるとは、さすが反骨の映画監督アルモドバルなのである。ほぼほぼティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアの二人芝居で、大したどんでん返しもなく、淡々と進んでいく展開に物足りなさを感じなくもない。イングリッドの自殺幇助を疑うキリスト教福音派の警官をごっつぅ敵視した演出や、マーサの死後登場する“ある人物”に多少驚きがあるかもしれないが、まあまあ想定内といった感じなのだ。

トランプ“二度”めの大統領当選によってすべての常識がひっくり返りそうな予感のする今日この頃、リベラル代表格Warnerがあわててしかけた反出生主義のプロパガンダ映画、とでも表現すればいいのだろうか。生者=トランピストの上にも、死者=グローバリストの上にも均等にふるつもる雪とはいったいなんのことなのだろう?決して核戦争による“死の灰”のメタファーとならないことを祈るばかりである。

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かなり悪いオヤジ