「バーニーの強(した)かさといぶし銀のごときボランタリズム」靴をなくした天使 talkieさんの映画レビュー(感想・評価)
バーニーの強(した)かさといぶし銀のごときボランタリズム
「世の中は弱肉強食のジャングルだから、他人に施しなんかするんじゃない」と息子には教えながら、航空機の墜落事故に遭遇すれば躊躇(ためら)うことなく救助活動に取り組み、ライオンの檻(おり)に子供が落ちれば、それも捨て置けない-。
要するに、生きること、あるいは世渡りすることに不器用なだけなのではないかと、評論子は思いました。
本作の主人公のバーニー・ラプラントは。
ふだんは定職に就くことも珍しく、加えて、自分の窃盗行為が裁かれている法廷でも、あろうことか自分の弁護人の財布にまで、ちゃっかり手を出したりして、その意味では「手癖」は、もともとあまり良くはないようなのですけれども。
しかし、偽ヒーローのババーと対峙するや、強(した)かにも息子の学費負担をネタに「難交渉」をまとめ上げるなど、機に臨めば「臨機応変」の対応も、なかなか堂に入ったもの。
そういうバーニーの「人となり」を余すところなく演じていたダスティン・ホフマンの演技は本作の中でも特筆ものですし、彼の演技あっての本作とも、評論子は思います。
充分な佳作としての評価が与えられて、然るべきと、評論子は思います。
<映画のことば>
あの晩、パパは靴が片方だけだったよね。
(追記)
本作は、「真のボランタリズム」と「人がもつ素晴らしさを浮き彫りにしながら感動の「話」を作り出す」というゲイルのセリフに象徴されるような、報道機関の虚像と対比的に描いたということが、いわば「売り」だったのかも知れません。
もしそうだったとすると、本作は、ヒーロー探しのドタバタを通じて、映画業界には不倶戴天のライバル関係(?)にあるテレビ業界への痛烈な皮肉となっているのでしょう。
「作り出された価値観」に従うのではなく、「飛行機が落ちたら助けに行く」「ライオンの檻に人が落ちたら助けに行く」という、自分の自然な価値観を大事にして生きるべきだという箴言をもし本作が含むものであれば、人が毎日の生活を送るための指針として、令和の今でも立派に通用すると、評論子は思います。
(追記)
<映画のことば>
俺も現場にいた。
機内に突入しなかったのは、俺たちがプロだからなんだ。
もちろん、危険な人命救助もするが、ムチャはしない。
例の男はバカで無謀なだけだ。
なのに、テレビでもてはやす。
こういうセリフを聞くと、プロとボランティアの「地平」の違いを、評論子は実感します。
確かに、ある意味では、レスキューは、隊員の全員が無事に生還してこそのレスキューということ、それは動かしがたい鉄則なのかも知れません。
いや、動かしがたい鉄則なのでしょう。
レスキュー隊員にも自分の生活があり、養うべき家族があったりもしてみれば。
別作品『252 生存者あり』にも同じようなセリフがあったかと思います。
しかし、ボランティア活動は、自分ができる範囲のことを、自分ができる範囲で無償で行うという市民ベースでの活動。
確かに、身の危険を顧みないボランティア活動は、ボランティア活動の精神からは外れるでしょうけれども。
しかし、場合によっては(飽くまでも自己責任の範囲内ながら)そのようなことも必ずしもあり得ないことではないボランタリズムの世界を、プロフェッショナル目線で批判的に捉えるのはいかがなものか、と思ったのは、たぶん、評論子独りではなかったこととも思います。
実際、アメリカ・ニューヨーク市マンハッタン区付近のハドソン川に、USエアウェイ(当時)の航空機が墜落したときに、救助ヘリから降ろされる救命索を次々と他の人に譲り、自分は溺死してしまったという人もあったと聞き及びます。
その彼の(彼の価値観に基づく)行動を「バカで無謀」と切って捨てることが、果たして誰にできるでしょうか。
(やや異なった視点からではありますが、当該の墜落事故は映画化もされていることは、映画ファンの皆さまには、既にご案内のこととも思います)
(追記)
先程は、「バーニーは生きること(世渡り)に不器用」と評しましたけれども。
しかし、よくよく考えてみると、そうでもないのかも知れません、本作のバーニーは。
世間様には自分を認めてもらえないという逆境に陥っても、決して絶望したり、自暴自棄になったりもせず、千載一遇のチャンスを逃すことなく利用して、まんまと懸賞金を懐(ふところ)にした「偽ヒーロー」を介してとはいえ、ちゃっかり息子の学費は確保している訳ですから。
世の中は、バカをメッキした利口でないと生きてはいけない、そこらへんの大学を出るよりは、世間様という「大学」を卒業することの方がよっぽど有意義と聞いたことがあります。
本作のバーニーも、世間様が羨(うらや)むような職業には就いてはいなくても、学歴的には無学でも、実は、世間様という「大学」を立派に卒業…しかも、優秀な成績で卒業していたのかも知れないとも、評論子は思いました。
そこに、バーニーが言うところのジャングルのような現実社会で強(したた)かに生きていくための「知恵」が仕組まれていることを、さりげなく、本作は浮き彫りにしているのかも知れません。
<映画のことば>
「オフレコよ。助けてくれて、ありがとう。」
「いいさ(you are wellcom)」
<映画のことば>
「目の前に飛行機が落ちたんだ。」
「私の雷も落ちたぞ。」