劇場公開日 2025年3月14日

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「真サイコ」ロングレッグス 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 真サイコ

2025年10月30日
PCから投稿

監督オズグッドパーキンスは1974年、サイコのアンソニーパーキンスと女優ベリーベレンソンの間に生まれた。子役としてキャリアスタートし、若き日のノーマンベイツを演じたこともあったそうだ。母親は社交界の名士の娘で、女優やモデルの活動をしたあと写真家に転向したが、2001年9月11日世界貿易センタービル北棟に突っ込んだアメリカンエアライン11便に乗っていた。

オズグッドパーキンスはピープル誌のインタビューの中で、この映画について、父アンソニーパーキンスの性的指向に対する母親の接し方から着想を得た、と語っている。
母ベレンソンは、アンソニーパーキンスが同性愛者であることを知っていたが、それを世間や子供らに知られないように振る舞っていたので、やがて物心ついたオズグッドにとってそれは触れるべきではない秘密になった。
ベレンソンはアンソニーパーキンスが1992年にエイズ関連の合併症で亡くなるまで夫婦関係を続けた。息子であるオズグッドには秘匿すべきことを完遂した母親のイメージが残った。

またジョンベネの事件からインスピレーションを得た、とも語っている。
『両親がクリスマスにジョンベネに贈ったプレゼントの一つは、彼女の舞台用ドレスを着た等身大のレプリカ人形だった。それは殺害現場から僅か15フィートの地下室の段ボール箱の中にあり、その事実に狂気を感じた。』

オズグッドの言ったとおり映画には秘密をもった母親と悪魔憑きの人形がでてくるがそれらは狂言回しである。主たる恐怖を受け持ったのはシリアルキラーロングレッグスで、顔を特殊メイクの肉塊で盛った蒼白のニコラスケイジが演じた。その風貌も言動も仕草も不気味で怖かった。
マイカモンロー演じるFBI捜査官リーハーカーは言ってみれば羊たちの沈黙のクラリスだが、ハンニバルとは違い、ロングレッグスは彼女の内なる存在でもあったような気がする。モンローはすっかりホラープロパーの貫禄だった。

空気感(雰囲気)にセンスがあった。オズグッドパーキンスは2015年にThe Blackcoat's Daughterという映画を撮っている。邦題はフェブラリィ悪霊館。たいして面白くなかったが雰囲気は良かった。エマロバーツとキーナンシプカとルーシーボイントン、旬なヒロインを三人も配していたが、そのこと以上にホラー的空気感が良かったことを覚えていた。
二世にはそうでない人もいるがブランドンクローネンバーグを見ると蛙の子は蛙だと思うし空気感はセンスだと感じる。
本作を見て、また母親から着想したという監督の述懐を見て、最後まで嘘をつき通した母親ベリーベレンソンのイメージが空気として再現されているのを感じた。オズグッドは伊達にアンソニーパーキンスの息子をやっていたわけではなかった。
翻って、往々にして映画には作り手の人生が反映されてしまうものだ。たいした履歴のないクリエイターにとってそれは不利なことだと思う。

映画は興行的にも批評的にも成功した。本国ではブレアウィッチプロジェクトのようなゲリラマーケティング戦術が採用され、暗号化された言動やプロモーションビデオなどで憶測を煽った。
具体的には映画中の録音メッセージを聞くことができる電話番号を記載した看板、マイカモンローが初めてニコラスケイジが扮装したロングレッグズのキャラクターを見た時の心拍数を測ったビデオクリップ、映画の背景に繰り返し現れる隠しキャラ的悪魔の登場を強調したCMなどで、それらは悉く成功したと言える。映画は2024年度のアメリカで最も興行収入の高い独立系映画になったそうだ。
imdb6.6、RottenTomatoes86%と61%。

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津次郎
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