「何かが噛み合わない不安が恐怖へと変わる映画」ロングレッグス satoさんの映画レビュー(感想・評価)
何かが噛み合わない不安が恐怖へと変わる映画
まず率直な感想が「そっちだったのか」
これは私があらすじを見た段階で勝手にシリアルキラー物のホラー映画だと思い込んだ為に起きた衝撃。
本当に勝手にドラマの「クリミナルマインド」の様なFBI捜査官のプロファイリングが絡むストーリーなのだと思い込んでいた為に序盤から「もしかして何か違う…?」と言う疑問が頭の片隅にこびり付いていた。
ではこの映画は期待外れだったのかと言われればそれは違う。
導入部分から不安を掻き立てるカメラワークや、居心地の悪さを感じさせる音響。
サブリミナルのように挟み込まれる映像も不穏な空気を作り出していく。
「何かが噛み合わない不安」
捜査は進んでいるのに、容疑者は拘束したのに何かがおかしい。何も掴めていない気がする。
ロングレッグスが取り調べの最中に自殺してから、物語は坂道を転がるように加速していく。
主人公リーの母親であるルースが「ここには誰もこない、親戚も悪い狼も」と口にしていたが、そこから察するにこの親子は何かしらの訳があって二人で暮らしているのだろう。
ホラー映画においては「親子愛」と言った物が軸として存在している事が多い。
そしてそれは母親から子供へ対しての愛情が多く見られる。
彼女達は愛する子供の為に自ら犠牲になり、身を傷付け、そして悪魔に魂を売る事すら躊躇わない。
「あなたを生かす為なら何でもやる、何度でもやる」と言うルース。血塗れの彼女はまるでマリア像のような美しさと神々しさすらあった。
悪魔は歓迎されないところには決して出向かないと言うキリスト教の言い伝えがあるが、その歓迎の証として人形を受け入れる事なのだろう。
個人的にはいきなりあんな人形をもらったら泣く気がするが、ルースを招き入れ箱を受け取った時点で悪魔に魅入られているのだろうか。
本作で印象に残ったセリフの一つに「生きる事を許されたから大人になれた」と言う物がある。
私達も皆それぞれ、誰かに生きる事を許されているのかも知れない。
誰かを犠牲にしながら。
余談だが「ロングレッグス」と言うのは犯人の殺害方法から取ったニックネームに違いない!と思っていた。
足の関節を外して伸ばした状態で見付かった…的な。