「ヒーロという言葉の重みと深みに胸打たれる」ヤング・ウーマン・アンド・シー 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
ヒーロという言葉の重みと深みに胸打たれる
一人の若き女性スイマーが英仏海峡の横断に挑むーーーこれは1920年代の、まだこの水域を泳ぎ切った人が数人にしか過ぎない頃の物語である。当時の女性アスリートが置かれていた状況に息苦しさを感じ続けてきた彼女。第8回パリ五輪に出場するのに船内で3週間も練習なしで、男性選手の目に触れることなく、ひっそりと過ごさねばならなかったなんて本当に驚き以外の何物でもないし、鑑賞しながら本当に腹が立った。しかしそこから彼女が「泳ぎたい」という想いを胸に、女性アスリートの未来を見つめながら一つの挑戦へと踏み出していく姿は鳥肌モノ。特にラストの30分は幾度も涙せずにいられない。スイマーを押し戻し力を消耗させる波の表現などは、これまで海を舞台にした幾つかの良作を手掛けたロニング監督の経験値が光る。そして何よりもデイジー・リドリー。颯爽とした存在感と、彼女が口にするヒーローという言葉の深みに胸打たれる129分である。
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