劇場公開日 2025年2月7日

「美しい映像と感動的なドラマ」野生の島のロズ ありのさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5美しい映像と感動的なドラマ

2025年2月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

楽しい

興奮

 同名の児童文学(未読)を、「ヒックとドラゴン」で知られるクリス・サンダースが監督、脚本を務めて製作した作品である。

 「ヒックとドラゴン」は少年とドラゴンの友情を描いた物語だったが、本作のロズとキラリの関係にも異種間同士の絆というメソッドが流れている。今回は機械と動物の疑似母子愛を描くドラマとなっている。

 物語序盤はロズが自然の動物たちに一方的に呼びかける少しシュールな展開で始まる。まるでピクサー製作の「ウォーリー」を彷彿とさせる孤立状態が続き、次はどうなるのかと期待を持たせる。

 やがてロズは動物たちの言語を学習し、コミュニケーションをとれるようになっていく。このあたりは如何にも最先端AIロボットといった所で非常に便利である。しかも、かなり頑丈で崖から落ちても谷底に転がっても故障はしない。こんなロボットがいたら戦争の兵器に転用されないか?などと要らぬ心配をしてしまったが、実際に終盤はそれっぽい感じになっていく。

 それはともかく、ある事件をきっかけにロズは鴈のひな鳥”キラリ”と出会う。ここからドラマは本格化していくが、ここまで物語はよどみなく進み、大自然の美しい映像がふんだんに登場してグイグイと画面に引き込まれた。

 ちなみに、ここでもう一匹、チャッカリというキツネが登場してくる。ずる賢くてユーモアがあって他の連中と群れない一匹狼的キャラで、ロズから”愛とは何か?”と聞かれてクールにはぐらかすシーンが中々に良かった。愛というものを知らないロズと同様、彼もまた愛を知らずに生きてきた男。そんな二人がキラリの育児を通して友情で結ばれていく過程にしみじみとした感動が味わえた。

 ここまで本作はほぼ完璧の出来と言っていいと思う。
 特に、ロズが鴈の群れの中を駆けるシーンは感涙モノである。キラリの巣立ちがはっきりと実感され胸が熱くなった。

 ただ、本作はこの後にもう一盛り上がり、次の展開が用意されている。個人的にはここから余り入り込めなくなってしまった。ネタバレを避けるために詳細は伏せるが、乱暴な展開が目に付く。特に、3幕目以降は安易にスペクタクルで盛り上げようという魂胆が透けて見える。
 また、多様性を受け入れるダイバーシティ的メッセージも唐突に感じられた。

 原作が児童文学ということを考えれば、このあたりは子供の教育上とても良いことなのだと思う。しかし、作りが粗くなってしまったせいで、かえって作品が歪に見えてしまったのも事実だ。

 個人的には、機械(ロズ)の中に自我は芽生えるのか?という所をもっとじっくりと描いて見せて欲しかった気がする。確かにありがちなドラマになってしまうかもしれないが、昨今のAI技術の進化を考えれば、AIロボットに育児は可能か?という問題を含め、とても興味深いテーマを炙り出せたのではないだろうか。

ありの