「 AIを存分に所有、駆使できる企業や国が覇権をにぎる時代を目前にして、この作品の何と暗示的なことでしょうか。」野生の島のロズ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
AIを存分に所有、駆使できる企業や国が覇権をにぎる時代を目前にして、この作品の何と暗示的なことでしょうか。
アメリカの作家ピーター・ブラウンによる児童文学「野生のロボット」シリーズを原作に、野生の島で起動した最新型ロボットが感情がないはずなのに心が宿るという王道の展開です。
でも、設定を少しひねれば物語はいかようにも広がっていきます。「シュレック」や 「ボス・ペイビー」を手がけたドリームワークスの最新作は、人間をサポートするために作られた最新のロボットが、無人島で「子育て」に奮闘する様子を描く長編アニメ映画です。
●ストーリー
嵐の影響で、ユニバーサル・ダイナミクス社の輸送機がロッザムロボットを失い、ロボットは大自然に覆われた無人島に流れ着きます。ロボットの中で唯一生き残ったロッサム7134、通称「ロズ」(声・綾瀬はるか)は、野生動物によって偶然にも起動ボタンを押されて起動します。
都市生活に合わせてプログラミングされたロズは、野生の島では動物たちを怖がらせるばかりで全く機能できませんでした。それでもロズは学習機能を駆使して野生動物たちと意思疎通できるようになりますが、疎まれてしまうのです。助けを必要とする存在を見つけられないロズは、製造工場に帰ろうと救助信号を送ります。しかし雷に打たれ、動物たちに襲撃されてしまいます。凶暴なクマのソーン(声・田中美央)から逃げる途中、誤って雁の巣を潰してしまい、一つの卵が残ります。ロズはその卵を空腹のキツネのチャッカリ(声・柄本佑)から守るのです。卵から孵った雛に「ママ」と呼ばれたことで、ロズに思いもよらなかった変化の兆しが現れます。
多くの子を持つオポッサムのピンクシッポ(声・いとうまい子)から助言を受けたロズは、雛が冬の渡りに備えて飛べるようになるまで世話をすることを決意し、雛に「キラリ」(声・鈴木福、濱﨑司(幼少期))と名付けるのです。チャッカリもロズと共に暮らすようになり、ロズの住処作りを手伝うことになります。キラリは成長するにつれ泳ぎを覚えますが、他の雁たちにからからかわれます。やがて、ロズがキラリの家族を死なせた原因であることを知ったキラリは怒り、ロズと仲違いして飛び去るのでした。
島に残ったロズの優しさに触れ、怪物として彼女を拒絶していた動物たちも、次第に島の“家族”として受け入れていきます。
動物たちと共に厳しい冬を越えた頃、回収ロボットが彼女を探しにやってきます。果たして、築いてきた動物たちとの絆から引き裂かれようとするロズの運命は?島の存亡をかけたロズと動物たちの戦いが、いま始まろうとしていました。
●解説
ロズはひな鳥に「キラリ」と名付け、飛んだり泳いだりと、渡り鳥には欠かせないスキルを手探りで教えていきます。プログラミングが通用しない環境で悪戦苦闘するうち、想像もしなかった喜びに出会うのです。ロズに感情が芽生えていく過程は、同じような経験を思い起こして共感する人も多いことでしょう。
監督は、老練クリス・サンダース。趣向の数々がみごとに決まっています。特にロズの造型が面白いのです。シンプルなスタイルですが、実に表情豊かです。目や胴の放つ光彩や身振りをうまく使っていると思います。
雁の雛がかえって、初めて目にしたロズに 「ママ」というところなど心憎いかぎりです。この瞬間、なんとロズに「母性」が芽生えたのでした。機械であるロボットにあり得ない展開なのに、AIの学習機能の結果、そんな突然変異が起こり得るのかもしれないと思わせる展開が巧みです。
ロズは、チャッカリなどの協力を得て、キラリを立派な渡り鳥に育て上げるのですが、そのくだりも華麗に見せてくれます。キラリが交流することになる雁の大群は3万羽近く、ロズが遭遇する蝶の群舞は8万頭が登場して、その映像美に圧倒されました。
季節の移り変わりとともに進む物語は絵画のように美しいシーンの連続。手描きで表現された自然豊かな島の背景には、CGだけでは出せない温かみと深みがあったのです。サンダース監督は、いわばアニメ技法のありったけを披露してくれました。
物語は後半、がらりと様相を変えます。ロズの体内の回収装置が始動して、大都会の本部がロズの回収にかかるのです。前半の動物たちの家族愛、共生、多様性といった温もりに人間が水を差し、戦いが始まります。
私たちはいま、AIを存分に所有、駆使できる企業や国が覇権をにぎる時代を目前にしています。この作品の何と暗示的なことでしょうか。
日本語吹き替え版では綾瀬はるかがロズの声を務めています。序盤の機械音声のような口調に、徐々に人間らしい感情がにじむ様子を繊細に表現していました。
日本語吹き替え版では綾瀬はるかがロズの声を務めています。序盤の機械音声のような口調に、徐々に人間らしい感情がにじむ様子を繊細に表現していました。