「【エル・システマ創設者マエストロ・ホセ・アントニオ・アブレウの志を引き継ぐ、政治的混乱の渦中にあるベネズエラの新たなるマエストロ、ドゥダメルの栄光と苦悩と挑戦を描いたドキュメンタリー。】」ビバ・マエストロ!指揮者ドゥダメルの挑戦 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【エル・システマ創設者マエストロ・ホセ・アントニオ・アブレウの志を引き継ぐ、政治的混乱の渦中にあるベネズエラの新たなるマエストロ、ドゥダメルの栄光と苦悩と挑戦を描いたドキュメンタリー。】
■エル・システマ・・後にベネズエラの文化大臣に就任したマエストロ、ホセ・アントニオ・アブレウが1975年にベネズエラでスタートさせた音楽教育システムである。
無料で楽器を習い、オーケストラ活動に参加できる事で、若者を薬物や虐待、犯罪から救うというプログラムである。
特に貧困層の子供達に、自尊心とコミュニティを与えた功績は大きく、世界各地へ広まって行った。
今作で描かれるドゥダメルもエル・システマで学び、60歳で一人前と言われる指揮者として、グスタフ・マーラー国際コンクールで20代で優勝し、脚光を浴びた天才である。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・ドゥダメルの、華やかなるクラシック界での成功がありながら、常に柔和な笑顔を浮かべオーケストラとの厳しい練習の時にも、身体全体でリズムを取りタクトを振る様が魅力的である。
そして、各地でサインを求められる時も、嫌な顔一つせずに対応している。中には貧しい子供が目を輝かせながら紙切れを出してくるが、それにもキチンとサインを書いて上げているのである。
・彼は、独裁政権を続けている故郷ベネズエラのマドゥロ大統領を批判しなかった事で、劇中に描かれているように非難されてきたが、反政府デモで若き音楽家が亡くなった事で政府機関を繰り返し批判するようになるが、彼の多くのコンサートが政府により中止に追い込まれても、ウィーン、ベルリン、ニューヨークと多くの管弦楽団の指揮を執り、その中でエル・システマの若手演奏家も呼んで、メキシコでユースコンサートをしている。その際にドヴォルザークの「新世界」のフィナーレで、ホ短調による頂点を奏でるシーンは印象的である。
彼は、又、トップクラスの演奏家と若手演奏家を共演させることで、人材育成もしているのである。
・ホセ・アントニオ・アブレウの死去の際に、傍に入れなかった事を悔やむドゥダメルの姿。この映画で初めて見せた苦悩の表情。
だが、彼はチリのサンディエゴに世界中から演奏家を呼び寄せ、チャイコフスキーの交響曲を奏でるのである。
<祖国ベネズエラの大統領府との軋轢があっても、ドゥダメルの表情は明るい。あの柔和な人懐っこい笑顔は変わらない。それは、エル・システマの中で学んだ音楽の力なのだろうなあ、と私は思ったのである。ドゥダメルの生き方には、素直に感動したし、元気も貰ったなあ・・。>
<2025年2月2日 刈谷日劇にて鑑賞>