「鬼滅の祓」破墓 パミョ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
鬼滅の祓
巫堂(ムーダン:韓国の巫女)とその弟子、風水師、葬儀師がある墓の調査を依頼される。
墓から掘り返されたのは…
あっと驚く衝撃的なものでなければ本国韓国で観客動員数1100万人の大ヒットはしないだろう。
韓国映画はサスペンスやバイオレンスに力作多いが、ホラー映画も近年インパクト強し。
いつぞや見た超ド級衝撃作『哭声/コクソン』を彷彿させるオカルト路線。
そこに、歴史、一族、風習など横溝ミステリー要素も盛り込み、食指そそる。
問題の墓はある富豪一族。
その一族で代々奇病が続き、産まれたばかりの赤子にも…。
一族から巨額の報酬と引き換えに原因究明を依頼された巫堂のファリムと弟子のボンギル。原因が先祖の墓にある事を調べ付く。
お金の匂いを嗅ぎ付け、風水師のサンドクと葬儀師のヨングンも協力。
改葬とお祓いを同時に行おうとするが、その時、邪悪なものを目覚めさせてしまう…。
巫女や風水師や葬儀屋から成るお祓いチーム…と聞くときな臭さを感じる。人騙しや金目的の為のペテン輩も多い。
が、4人はその道に通じたプロフェッショナル。儀式やウンチクなどもしっかりと。信じるか信じないかは人それぞれだが、映画でよく描かれるイカサマ連中ではない。
でないと話が成り立たないからだ。その道に通じたプロフェッショナルたちの常識を凌駕し、目の当たりにしたのは…
その墓は山奥に。土地としては良地だが、4人はすぐに不穏なものを感じ取る。
富豪一族の先祖の墓としては地味な墓。おまけに名無し。
棺を掘り返し、改葬とお祓いの準備をするが、棺の中にお宝があるとの噂を聞いたサンドクの助手が棺をこじ開けてしまう。
その時、何かが解き放たれ…。
その“気”だけでファリムは失神。サンドクの目の前で一族の現跡継ぎに取り憑き、赤子の前にも…。
朧気な姿、『エクソシスト』よろしく首が180度回転…!
正体は、邪悪なる存在になった一族の祖父。
一族の許可を得、棺と中の遺骨を火葬。祖父の悪霊は消え、終わったかに思えたが…。
不穏さや不気味なムード、恐怖演出やショッキング描写…。オカルト・ホラーの定番をしっかり踏まえ、これだけでもそんじょそこらのホラーと同等だが、それだけに終わらない。
墓から新たに掘り返されたものの如く。二段構成。
さらなる衝撃が開かれる…。
棺をこじ開けた助手にも怪異が起こり、助けを求められ、ファリムやサンドクたちは再び棺を掘り返した場所へ。
そこをさらに掘り返していくと、もう一つ棺が…。重葬。
異常なのはその棺の大きさ。一回り大きい。中に何が…?
棺を掘り出し、この地に詳しい坊さんの寺で一旦保管。お祓いの準備を進める。
絶対に開けてはならないのは承知。結界を張って中からも出られないようにした筈が、結界の死角から…。
ボンギルがまず“それ”を目撃。
想像を絶する“それ”は、文字通り鬼か悪魔。戦国時代の武将が悪鬼になったものだった…。
まさかの日本の鬼の登場にびっくり!
その姿は鬼と言うより悪魔みたいだが、最近鬼の姿なんて様々だし。ちゃんと日本語を喋り、小山力也氏を起用したボイスは迫力。
しかし、何故に戦国時代の武将の遺骨が韓国に?…という疑問は拭えない。
戦国時代、豊臣秀吉による朝鮮出兵。
戦時中、一族の祖父が祖国を裏切り、日本へ内通。
日本の陰陽師=キツネが虎=韓国の腰を切る。
日本と韓国の浅はかならぬ関係、強いては反日すら浮かび上がり、日本人としては複雑な気持ちに…。
が、そこまであからさまな反日メッセージは感じなかった。あくまでエンタメの為の一つの要素。
どう感じるかは人それぞれだが…。
それぞれ肩書きが違うプロフェッショナルたちがチームを組む様は“お祓いアベンジャーズ”。チェ・ミンシクもそう言ってるし。
チェ・ミンシクはさすがの存在感、ユ・ヘジンは不気味な作風にユーモアを加味、両ベテランが安定の演技を見せる中、若い二人が奮闘。
実質主役のキム・ゴウンは祈祷シーンが迫力。『哭声/コクソン』のファン・ジョンミンにも負けず劣らずの異様な高揚感。
イ・ドヒョンはTVドラマには色々出てるようだが、映画はこれが初。前半は台詞も少なく控え目だが、後半は鬼将軍の部下に取り憑かれ、なかなか凄みを発揮。
監督チャン・ジェヒョンの作品を見るのはこれが初めて。これまでにも宗教や因習題材のオカルト・ホラーを手掛けており、その手腕は確か。
ちと複雑な点や難解な点やちと分かり難い土俗的なものもなきにしもあらずだが、有無を言わせぬ恐ろしさや迫力がある。
暗示的になりがちな邪悪なる存在もしっかり見せるサービス精神も充実。
新たな依頼や調査対象が変われば、このチームによるシリーズ化も出来そう。
衝撃もありエンタメ性もあり。こんなのを見せられたら、Jホラーの斜陽を痛感させられてしまう。