「2作目ありきの展開」アグリーズ mamemameさんの映画レビュー(感想・評価)
2作目ありきの展開
単なる近未来ユートピアSFのように見えるが、現在にも通じるルッキズム問題を拡大した価値観、マッチョイズムや思考力統制等共和党支配のアメリカに見られる方向性、つまりは「今のアメリカがそのまま突き進んだらこうなるぞ」という未来像を描いている。
無理やりそういう未来像にしているので、いろいろ辻褄が合わない部分もあるけれど、そういう意図があるならばまあ目をつぶりましょう。
ポストアポカリプスのユートピアSFとしては最近だと「ハンガー・ゲーム」シリーズや「ダイバージェント」シリーズが思い浮かぶけど、この作品はもう少しジュヴナイル寄りで、それゆえルッキズム問題が「思春期に良くある価値観のブレ」にまで落とし込められている。16歳の手術=子供から大人への明示的なイニシエーションとなる社会構造が、子供の持つ不満感を「大人ではないから、プリティじゃないから、アグリー(醜い)から」という理由で子供自らが納得するように仕向けている。
時間で解決されるのだから、疑問を持って状況を調べて改善する必要は無い。そうやって子供が持つ疑問力を抑え込み、従順な豚に落とし込む。序盤に主人公が拾った豚のマスクはそういう意味を持つ。
そういう子供が主人公だから、思考も信念もぶれる。そして事態を悪化させる。でもそれは大人になる過程なのだから仕方がないと考えれば、無茶苦茶な展開も少しは許せる。
考証は結構いいかげんで、スモークの場所がわからないなんて言っているけどあんなのドローンと赤外線で一発じゃん(しかも焚火までしていて、隠れるつもりなんか無いだろ?)とか、ナノなんとかが必要って言って潜入したらすぐに見つかるのはどうなのとか、ロボトミーを治療する薬が出来たのに「治療には当人の許諾が必要」とか言ってためらうとか今更おかしいだろとか(その許諾ができない状態を治すための薬なんだから、許諾を待ってたら意味がない)、新しい体制になってしばらく経っていると思ったら1~2世代くらいしか経っていなくて戦後の日本より復興スピードが凄いとか、時代と環境で美の基準なんてコロコロ変わるのに、何を以て「プリティ」を定義しているのか、ツッコミどころは山ほどあってこれもまた面白い。
そんなところがちょっとアサイラムの映画みたいなテイストもあるけれど、絵はきれいだから一緒にしたらかわいそうかな。
問題は、最後の展開。主人公が手術されて終わってしまう。低い評価を付けたくなるのもわかる。
ここで終わってしまったら噴飯ものの駄作だけど、2作目を作ることが前提のフックだったと考えると、評価が変わってくる。
思えば未回収の伏線がある。バンジースーツというガジェットはなぜこの映画に出て来たのか(スーパー偵察隊になった「大鼻」のスーツも同等の機能があってしかるべき、つまり彼はまだ死んでない)、白い花の真実はどちらなのか。それらが明らかになるのは2作目だから、今のところはほったらかしなのだろう。
2作目は多分手術された主人公が平和にプリティな生活を送っているところに治療薬を持った昔の仲間が現れ、それで正気に戻ったところで(ここらへん「トータル・リコール」っぽい展開)アジア人の友人も正気に戻し、更にスーパー偵察隊だった大鼻は死んでないが隔離されていて、それも正気に戻して味方になり今度は反乱軍のリーダー/主人公/大鼻で三角関係、そして本格的な弾圧が始まり、反乱軍はアグリーズに真実を突きつけ味方にして反転攻勢に出る。ここらで大鼻が倒れて「その死は無駄にしない」と反乱軍は中核まで進撃、最後にドクターが倒される。簡単に倒されるか、自分になんかすごい注射を打ってラスボス化してバトルシーンになるかは予算次第。
でも評価が高くないと続編作られないと思うので、みんな見て応援しよう!作られないとほんとにこの作品を見た時間がただの無駄だったことになるので、続編作ってほしいなあ。