劇場公開日 2024年10月4日

「普遍的な友情ドラマ」HAPPYEND ありのさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0普遍的な友情ドラマ

2024年12月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

楽しい

 一応、近未来という設定であるが、基本的には現在とさほど変わらない世界観である。劇中にはAIによる監視システムや移民排斥、反政府デモ、経済格差、巨大地震への不安といった社会問題が出てくる。しかし、これらは現代でも語れる問題であり、正直、近未来にしたした理由がよく分からなかった。

 物語はユウタとコウの友情を軸にしながら、彼等と同じ音楽クラブに所属する3人の同級生が織りなす群像劇となっている。

 ユウタとコウは幼なじみで大好きな音楽を通じて固い友情で結ばれている。ところが、二人の出自はまったく異なり、コウは在日韓国人の苦学生。ユウタは母子家庭のようだが割と裕福な家庭である。幼い頃は無邪気に遊んでいるだけで楽しかったのだろうが、大人になると物の考え方が変わり、かつてのようにはいかなくなってしまう。本作はそんな二人の友情の崩壊と修復のドラマとなっている。

 彼等以外の3人の高校生も夫々に個性的に造形されていて面白く観れた。お調子者のアタちゃん、中国人とのハーフと思われるミン、黒人のトム。彼等もまた出自は異なるが、気が合う仲間同士。時に衝突したり、繋がり合ったりしながら夫々のアイデンティティを模索していく。

 特に印象に残ったのは、コウとトムがキッチンで会話するシーンだった。コウの告白を影から聞いていたユウタの心中を察すると実に切なくさせる。
 また、ユウタとコウの別れを描くラストの歩道橋のシーンも良い。ストップモーションの演出に二人の胸中が色々と想像させられ深い余韻に浸ることが出来た。
 他の3人もドラマ的には上手く着地させており、シリアスな展開がありながらも、最後は爽やかに締めくくられていて良かったと思う。

 一方、大人たちの描き方については紋切り的でもう少し深みが欲しい所である。頭の固い校長や子供たちをデモに勧誘する活動家、放任的な母親等、余りにも形骸的である。また、デモにのめり込むクラスメイト、フミもアジテーションの強いキャラで魅力に欠ける。

 尚、度々鳴り響く地震アラートがドラマ上まったく意味がなく、個人的には鑑賞のノイズでしかなかった。中盤でそれを使ったユウタの悪戯が出てくるが、ここもご都合主義に感じられてしまったが残念である。

 キャストでは、メイン5人の少年少女のナチュラルな演技が瑞々しくて良かった。聞けば、アタちゃんを除く4人はオーディションで選ばれた新人ということだ。特に、ユウタとコウを演じた俳優たちには光るものが感じられ、今後の活躍が期待される。
 校長役の佐野史郎、ユウタの母親役の渡辺真起子といったベテラン陣の配役も良い。物語をきっちりと締めている。尚、佐野史郎繋がりで、”子供”対”大人”という構図から「ぼくらの七日間戦争」を連想させられたりもした。

ありの