劇場公開日 2024年10月4日

「いちばん偉いのは電子計算機」HAPPYEND サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0いちばん偉いのは電子計算機

2024年10月24日
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鑑賞方法:映画館

笑える

怖い

知的

自分が苦手そうな雰囲気が予告やポスターから醸し出されていたから、多分好きになれないだろうな〜ハマれないだろうな〜と思いながら鑑賞したら、驚くほど高品質で作り込まれており、大好きと言える作品だった。
ストーリーやメッセージそのものは「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」とどこか似たものを感じるけど、あの作品よりも現実的で近い将来起きる、いやむしろ今すぐにでも起きてもおかしくない日本社会を描いており、そのリアルさがまるで監視カメラ越しの映像かのようで、どことない緊張感と物語の説得力があった。

かなり静かで間の多い作りにもかかわらず、神妙な音楽や独特なカメラワークがこの映画だけの世界を造り上げ、ストーリーは現実主義なのにどこか遠くの国の様子を見ているような、そんな気分に襲われた。空音央監督作の故・坂本龍一のドキュメンタリー映画に携わったスタッフが再集結しており、おかげで日本が舞台なのに日本映画には思えない不思議な映像体験を味わうことが出来る。編集、撮影、プロデュース、音楽など、数多くの外国人スタッフが在籍していることもこの体験の一因だろう。

今にも終末を迎えそうな世界。秩序はとっくに崩壊しており、社会性も失っている中で、主人公たちは今だけの青春を謳歌する。明るく、楽しく、一生モノの大切な時間になるはずなのに。乱れた世の中のせいか、彼らが学校内馬鹿やってる姿は何故か悲しく、虚しい。今の日本もそう遠くない未来でこんな現実が待っているかもしれない。そんなことを考えると、途端に登場人物に感情移入してしまい、希望の光の見えない世界で必死にもがくのは、校内で馬鹿やること以上に馬鹿なんじゃないかとも思えてきた。この瞬間は今だけなんだから。青春映画にありがちなそのメッセージは、この映画では途方もなく苦しく、説得力で満ちていた。

さほど起伏がある物語展開では無いため、飽きることは無いものの見応えに欠けるのは事実。今の日本に対して真っ向からぶつかり、様々な事柄を皮肉る超社会派ドラマであるため、青春映画という括りでありながらも若干説教臭く、堅苦しい印象が残る。
キャラクターのクセと人間味で何とかエンタメ作品になっているけど、もう少しポップにしてくれないと過激な啓発本のように捉えられちゃうかなと思った。左翼と左翼・右翼のどちらでもない人のぶつかり合い、って感じでかなり思想が強い作りになっているし笑 それでも、青春映画でこれをやって見せるのは挑戦的で面白いし、全体的に見ればかなり好きだった。

ミニシアター映画にも関わらず、ベネチア映画祭に出品された作品というのもあってか、日本の大作映画と比較しても頭ひとつ抜けて完成度が高く、映像による感動がすごい。社会派ドラマでありながらも、重点は青春であり、友達の間にある複雑な思いや立場の違いなんかが鮮明に描かれていて、経験したことがないのにとても共感出来た。いい意味で邦画ぽくない。
最近このテイスト流行ってるけど、今の日本に向ける不信感もあって個人的には大好物なので、今後も意欲的に作って欲しい。空監督の次回作にも大いに期待。感覚に訴えかけてくるこの楽しさ、たまらん。

サプライズ
トミーさんのコメント
2024年11月9日

浅い若者、暴虐の大人、それぞれに上手く描かれてたと思いました。

トミー