劇場公開日 2024年8月30日

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「もう、逃げ場はない‼️」ACIDE アシッド kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0もう、逃げ場はない‼️

2024年9月8日
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鑑賞方法:映画館

高濃度の酸性雨が降る。
『ブレードランナー』(’82)のロサンゼルスに降っていた雨とは比較にならない強さの酸。
硝酸かそれ以上の強度であらゆるものを溶かしていく。
車の中も、家の中でさえも酸性雨は侵食してくるのだから安全な場所などない。
なんとも恐ろしい。

スマートフォン撮影と監視カメラの画像を繋いだような映像で、ある会社での労使間の騒動の様子を映し出して映画は始まる。その騒動は暴力沙汰にまで発展する。
暴力事件を起こした男の職場の同僚と思われる女性が労災事故にでも遭ったのか、入院している。二人は恋人同士のようだ。
男には別居している妻と娘がいる。
娘は、母親の兄の支援を受けて高校に通っている。学校で、傷害事件を起こした父親のことでイジメられている。
どうやら男は仮釈放中か執行猶予中らしく、足首にGPSアンクレットが巻かれている。
…といったことがなんとなく汲み取れる程度に説明を止めて、地味な人間模様がダラダラと描写される。
このあたりはハリウッド映画とは違い、悪く言えば緩慢で面白くないし、良く言えば登場人物の人間性をあぶり出している。

さて、酸性雨からの避難が始まると、父と娘のサバイバルが展開される。
襲いくる酸性雨から逃げ惑う人々。我先に逃げようと争う人間の行動には説得力がある。

男=父親(ギョーム・カネ)は、何に怒ったかは別として傷害事件を起こす気の粗さがある。娘のことは愛しているが、妻に対する気持ちは失せている。そして、他人に対してはまぁまぁ酷い。酸性雨に打たれて車に逃げ込んできた人を足蹴にしたりする。

娘(ペイシェンス・ミュンヘンバッハ)は、母親と伯父を嫌っているわけではないが、父親を慕っている。
だが、一緒に避難している中で父の人間性に疑問を持ち始める。疑いを持ってしまうと、何からなにまで怪しく見えるものだ。

クライマックスでは、自分たちを助けてくれた親子を見捨てた父親に反発した娘が窮地に陥る。
酸の水浸しの中、自分がどうなろうとも娘を救おうとする父親の姿には迫力がある。

彼らを一時的に助けた、人工透析が必要な幼い息子を持つ女性は、酸性雨によって腐蝕していく住まいの中で覚悟を決める。
この母の姿もにも、親の凄まじさを感じる。
雨水が浸水してくる恐怖から息子をかばうように抱きしめる…。

諦めない親と、絶望した親の姿…。

この映画はパニック映画に見られるような教訓などはない、ホラー映画だと受け止めるべきなのだろう。
物語は一旦終りを迎えるが、彼ら父娘にも、そして人類にも安息は約束されず、救いはないのだ。

kazz