「彼が乗るEVは宇宙に続いているが、一緒に乗る人がいないと2階にも辿り着けない」ぼくとパパ、約束の週末 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
彼が乗るEVは宇宙に続いているが、一緒に乗る人がいないと2階にも辿り着けない
2024.11.21 字幕 MOVIX京都
2023年のドイツ映画(109分、G)
原作はミルコ・フォン・ユターセンカ&ジェイソン・フォン・ユターセンカの自伝『Wir Wochenendrebellen: Ein ganz besonderer Junge und sein Vater auf Stadiontour durch Europa(私たちは週末の反逆者:ヨーロッパのスタジアムを巡る特別な少年とその父親)』
自閉症の少年が推しのサッカークラブを探す旅に出る様子を描いたロードムービー
監督はマイク・ローテムント
脚本はリヒャルト・クロプ
原題は『Wochenendrebellen』、英題は『Weekend Rebels』で「週末の反逆者」という意味
物語の舞台は、ドイツ北西部のハーン
バーガーショップのスーパーバイザーとして働くミルコ(フロリアン・ダービト・フィッツ)は、ドイツ中にあるチェーン店のアドバイザーとして奮闘していた
彼には妻のファティメ(アイリン・テツェル)との間に10歳になる息子ジェイソン(セシリオ・アンドレセン、幼児期:ヴァエンティン・アンドレセン)がいて、妹のルーシー(Florina Siegel)は生まれたばかりだった
ジェイソンは自閉症スペクトラムと診断されていて、なかなか周囲に馴染めない中、自らが作り出した「ルール」によって日常を過ごしていた
ある日のこと、クラスメイトのエマ(Charlotte Hübner)から好きなサッカーチームのことを聞かれたジェイソンは、意味が分からないまま家族に相談することになった
同級生のヘンリー(Otis Ray Whigham)の言う「ゆりかごの時に決まっている」は、「生まれた地域のチームを愛する」と言うものだったが、父も母もハーンのチームを推しにはしていなかった
そこでジェイソンは、父と共に週末にスタジアムに行って、自分の好きなチーム探しをすることになった
そして、ミルコは上司のブリンクハウス(Leslie Malton)に直談判し、週休2日の職務に就き、週末はドイツ中のスタジアムを回ることになったのである
映画は、自閉症のリアルを描きつつ、それに翻弄される父親と、少しの間解放された母親との関係が描かれていく
祖父のゲルト(ヨアヒム・クロール)は自身の父が自閉症だったと語り、それゆえにジェイソンと仲良くなれると言っていた
実際に過ごす時間が長くても理解できないこともあるし、わずかな時間でも理解できる人もいる
要は、ジェイソンをどの視点で見るかによって変わってくるものがあって、その視点に行かなかった自分の本性と言うものも見えてくる
ジェイソンが言う「パパは僕から仕事に逃げている」と言うのは、彼自身からはそう見えている部分があり、ミルコ自体は否定したい気持ちを言葉にはできなかった
この温度差を理解するに至るのが「EVに乗っているジェイソンを見ること」になっていて、彼は何度もEVを上下させていた
一緒に乗っていると、複数回上下させる意味はわからないのだが、俯瞰してみるとその意味が見えてくる
ジェイソンは「そのEVにずっと一緒に乗ってくれる人」を探していて、一過性で乗り降りする人では彼の人生に寄り添えないことを訴えていたのではないだろうか
いずれにせよ、かなりリアルな自閉症映画なので、あまりの行動に苛立ってしまう人がいるかもしれない
バス停の席で揉めた老女(Nela Bartsch)のように、ジェイソンが自閉症で、自閉症がどんなものかを知っていないと同じ行動を取る人は多い
母親も含めて、関わりたくないので場所を空けると言う人がほとんどだと思うが、関係なく躾がなっていない子どもとの区別を瞬時につけるのは難しいと思う
まずは自閉症についての正しい知識の浸透が必要なのだが、通りすがりの人にまで配慮や理解を求めるのは無理だと思う
なので、それを理解している人が端的にフォローに入れば良いのだが、それはそれで過酷な道のりのように思えた