「タイ・ウェストより、映画に愛を込めて」MaXXXine マキシーン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
タイ・ウェストより、映画に愛を込めて
監督タイ・ウェスト×主演ミア・ゴス×製作A24によるホラー3部作の完結編。
『X/エックス』ではスプラッターホラーへのオマージュと稀代の殺人鬼老夫婦を描き、『Pearl/パール』では時を遡って殺人鬼老婆の若き日と誕生を描いてきた。
本作は『X/エックス』のその後。あの惨劇を唯一生き延びたマキシーンがあの後どうなったか、いよいよ描かれる…。
ホラーがベースだが、3部作それぞれ違う時代や作風。
『X/エックス』は1979年のテキサス、王道的スプラッターホラー。
『Pearl/パール』は1918年のテキサス、クラシック作品の雰囲気やミュージカルのような演出も。
今回は1980年代のハリウッド。
あれから6年経った1985年。ハリウッドでスターポルノ女優となったマキシーン。
それだけに留まらず、目指すは映画スター。カルト的人気ホラー映画の続編『ピューリタンⅡ』のオーディションを受ける。
見事、合格。夢の映画スターへ一歩を踏み出した矢先…。
マキシーンの周りで連続殺人事件。折しも“ナイト・ストーカー”が巷を震え上がらせていた。
ナイト・ストーカーの犯行か、別の誰かか。マキシーンのあの過去の事を知っている…。
“ナイト・ストーカー”は実在の連続殺人鬼だが、詳しく知らなかった。
これを巧みに絡めてくるのかと思ったら、あくまで時代背景。
連続殺人鬼の存在で不穏な影に包まれた映画の都で、マキシーンが過去と対峙する…。
もうとにかく、マキシーン無双! 『ANORA/アノーラ』のポジティブ猪突猛進が評価されたなら、マキシーンだって。
気の強さ、いやそれ以上の態度のデカさ。オーディションでも緊張したりせず、堂々と。
オーディション終わりに審査員たちに、「私を採用すべき」。オーディションを待つ若い女性たちに、「採用されるのは私」。
ある帰りの夜道、男に襲われそうになるが、返り討ち。銃で脅し、服を脱がせ、睾丸を…えっと、犯罪です。
ちょっと先に述べてしまうが、自分を調べていた探偵も文字通り始末。(恐ろしいほどやり手のビジネス弁護士!)
正当防衛もあるかもしれないが、過去の事も含めると、決してクリーンではない身。それでも、
私らしくない人生は受け入れない。
媚びない。自分の弱さを見せない。自分を恥じたりせず堂々正直に。
マキシーンってこんな性格だったっけ…?
3部作それぞれ演じ分けるミア・ゴスのインパクトたるや!
映画業界が舞台なので、たくさんの映画ネタが楽しい。
ポルノやB級ホラーへの言及。業界への皮肉。
実在の作品やスター。あの“ベイツ・モーテル”も…!
街中に繰り出しても、レンタルビデオ店や楽曲など80年代カルチャー。
当時を知る人にはタイムスリップ。タイ・ウェストのセンス。
そんな80年代ハリウッドの光と闇…。
殺人鬼の魔手はマキシーンと同業のポルノ女優や親しいレンタルビデオ店主(ナイスガイだったのに…)、『ピューリタン』前作の主演女優にまで…。
マキシーンの周りで事件は起きている。警察はマキシーンをマーク。
マキシーンの過去を知る者。執拗な探偵は雇われただけ。その雇い主は…。
脅威が身近に迫るが、精神面にも。強気に見えて精神を蝕む過去のトラウマ…。
雇い主は黒幕であり、ナイト・ストーカーとは別の連続殺人鬼。
早々と察しは付いたが、ここで『X/エックス』と繋がった。
カルト宗教団体の神父で、マキシーンの実父。
ポルノやハリウッドを悪とし、その罪を暴く。娘を取り囲む悪を抹殺。娘を救う。
娘を木に縛り付け、悪魔祓い…。
こんなキチ○イ父親から逃げたいマキシーンの気持ちも分かるような…。
宝塚男役のようなクールな『ピューリタンⅡ』監督エリザベス・デビッキ、刑事にミシェル・モナハン、『ピューリタン』前作主演女優で白雪姫パロディのようなリリー・コリンズ、ダーティ探偵がハマり役のケヴィン・ベーコン…。キャストは3部作で最も豪華。
グロホラー、殺人サスペンスなどでダーク。主人公の無双っぷりとサクセス、ハリウッドの雰囲気で華やか。
3部作で最も規模や作風は盛っているが、インパクトや話は期待ほど一捻り無く…。真犯人の正体や展開も読めてしまった。
最後の最後に何か一捻りあるかと思ったら、案外あっさりと…。
勿論本作も悪くなかったけど、前2作のインパクトや斬新さには及ばなかったかな。
前2作はバッドエンド的だったけど、締め括りは夢や希望を感じさせて。
凝ったホラー3部作を通して、本当はこれが描きたかったのかもしれない。
タイ・ウェストより、映画に愛を込めて。
