「スラッシャー3部作の巧みな構成と統一感が画期的」MaXXXine マキシーン 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
スラッシャー3部作の巧みな構成と統一感が画期的
タイ・ウェスト監督と主演ミア・ゴスのコンビで作ってきた3部作。第1作「X エックス」は、ポルノ女優を目指すマキシーンと殺人狂老婆パールの二役をゴスが演じた。第1作の撮影準備期間中、監督とゴスはすでに第2作、若かりし頃のパールの夢と挫折を描く前日譚「Pearl パール」の脚本を書き上げていたという。そしてこの第3作「MaXXXine マキシーン」では、ポルノ女優として成功したマキシーンがハリウッドスターになる夢を追うが、彼女の暗い過去を知る者たちや連続殺人鬼が迫ってくる。3作目を観終わって、第1作でゴスが演じた2人のキャラクターのうち、老婆パールの前日譚を第2作で、女優志望マキシーンの後日譚を第3作でそれぞれ描くという構成の巧みさに改めて感心する。
第1作の撮影開始が2021年2月、第3作の主要な撮影が2023年春で、短い期間で3本を撮りきったこともトリロジーとしての統一感に寄与しただろう。スラッシャーホラーのジャンル映画では、当初シリーズ展開を想定していないものが1本当たってから急遽続編の企画を立ち上げることも多い。そうした場当たり的な連作に比べたら、この3部作の統一感と巧みな構成はある意味当然か。
前2作の成功を受け予算も増えたのだろう、共演陣もエリザベス・デビッキ、ミシェル・モナハン、リリー・コリンズ、ケヴィン・ベーコンと豪華に。ただし、ゴス+デビッキ、ゴス+モナハンといった具合に主演と人気俳優1人(+比較的マイナーな脇役)で撮られたシーンが多く、3人以上のスターによるアンサンブルが少ないのはやや残念。リリー・コリンズなどは気の毒なくらい出番が短いし。
あと、1作目、2作目で狂気の権化のようだったパールがこの3作目で不在なのも、物足りなく感じたポイントだった。ウェスト監督によると、脚本開発段階ではパールの幽霊を出す案もあったが、結局採用しなかったという。おそらく製作陣も、パールの突き抜けた狂気をどこかで加えたかったのではなかろうか。
ともあれ、3部作の大仕事をやってのけたタイ・ウェスト監督とミア・ゴス、それぞれの今後の活躍にも大いに期待する。