「Ⅱへのこだわりと民衆への信頼」グラディエーターII 英雄を呼ぶ声 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
Ⅱへのこだわりと民衆への信頼
2024年。リドリー・スコット監督。ローマ帝国の衰退期、領土は最大になったが、双子の皇帝の支配下で過酷な専制的支配が行われていた。敗戦の末に奴隷となった異国の男は、妻を殺した将軍を恨んでグラディエーターとしてのし上がっていくが、、、という話。
前作の世界観を引き継いだ続編。もう24年前らしい。ラッセル・クロウ。奴隷からのし上がって皇帝と対決、そこに愛が絡む、という基本を再び再現している。
冒頭、ローマに攻められる異国の地で主人公は農業を営み、妻は洗濯をしながらやさしく主人公に語り掛ける。映画の歴史における伝説の白いシーツですよ。典型的すぎて昨今のジェンダー規範的にどうなんだとおもわずにいられない「愛情豊かな夫婦」の描写だが、次の瞬間、戦争を告げる鐘がなると、夫だけでなく妻も戦闘服に身を包んでいる!現代的な「愛情豊かな夫婦」像では、女性は洗濯をするだけでなく戦闘にも出るのだ。これは単にジェンダー規範への敏感な対処なのではない。「Ⅱ」という数へのこだわりとして展開されていくのだ。ここではまず洗濯しつつ戦う女性。
続編だから、主人公が前作の息子であるのは自然な流れだが、それによって、主人公は奴隷でありつつ皇統を継ぐ者という二重性をはらむ(最初は明かされないし主人公の意識にも上らないのは意図的な省略だろう)。そして、当初の妻への復讐に自らの出自への自覚が加わっていく。主人公はローマ帝国内ではよそ者のため、帝国政治に関わる主人公の「代理」として母の再婚相手である将軍が存在している。帝国内の正義を体現する将軍。そしてもちろん、最悪の支配者として双子の皇帝。細かいことだが、その皇帝の1人が指名する執政官も2なのだ。そのうち片方は猿だから、無理やり数を合わせたかのようだ。後半で本性を現すあの男も、その意図は当初の主人公と同様に復讐だったことが判明する。復讐する2人の男。このように、続編であることを意識的に用いて、2から複数の意味(継承、代理、分有、分身、善と悪、など)を生み出しているようだ。すごいぞリドリー。
闘技場の中には敵と味方以外に「民衆」がいて「兵士」がいる。一部の力あるものや高貴な身分の者たちが織り成すドラマであっても、最後には民衆への信頼があるのも感動的だ。