「壮麗でファンシーな映像美術が命のブロードウェイ・ミュージカル映画、そのエンターテインメントの追求」ウィキッド ふたりの魔女 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
壮麗でファンシーな映像美術が命のブロードウェイ・ミュージカル映画、そのエンターテインメントの追求
長くアメリカで愛されている児童文学ミュージカル映画「オズの魔法使い」(1939年)を原典とした、ブロードウェイ・ミュージカルの舞台劇『ウィキッド』(2003年)を豪華絢爛に映像化した今日的なアメリカ映画。原作はグレゴリー・マグワイア(1954年生まれ)が1995年に発表した大人向け小説『オズの魔女記』で、舞台ミュージカルの大ヒットによりベストセラーの仲間入りを果たした。映画「オズの魔法使い」の悪役(西の悪い魔女)を主人公に、彼女の生い立ちから差別と偏見に晒される成長期の、生まれ持った魔力を持て余す苦難を描いたところが斬新であり、タイトルの“Wicked”は邪悪と最高、真逆の両方の意味を持っていて、現代日本語では“ヤバい”にあたる解説が分かり易い。更に中世ヨーロッパのキリスト教社会では“悪魔的”を指すといいます。プロローグの主人公エルファバを模った巨大な木像を燃やすシーンでは、その中世ヨーロッパの魔女狩りを想像させます。
今回の映像化にあたり、原典へのリスペクト、原作の今日的な解釈、そして舞台ミュージカルの再現度にこだわった成果は、最新の映像技術を駆使した極上のエンターテイメントと言っていい。反面そのサービス精神旺盛な力の入れようは、映画としての充実度、オリジナル性から不足もありました。例えばシズ大学の入学シーンは「ハリー・ポッター」を連想させ、入学を許可されたエルファバが希望に満ち溢れて歌うシーンは、「アナと雪の女王」を想起させます。ラストのエルファバが箒に乗って西の空に飛び立つ素晴らしいクライマックスまで、何処かで観たようなシーンが連続する既視感がありました。アカデミー賞の美術賞と衣装デザイン賞に値する華やかな映像作りを楽しめる一方、ストーリーの内容から想定される時間(個人的に90分)の約2倍を要する長さが、お話の流れを停滞させています。ここまでの長編にするなら、パート1と2に分けず一本に絞るべきと思いました。
しかし、歌と演技を兼ねた主役二人の充実度は見事でした。エルファバを演じたシンシア・エリヴォの力強く安定感ある歌唱と繊細な演技には魅了されましたし、エルファバと友情を育むガリンダを演じたアリアナ・グランデ=ブテーラの高音の美しい歌唱とユーモアを醸し出す演技の表現力の豊かさ。才能に恵まれ、それを容易く見せても謙虚さが偲ばれる演技でした。この女性二人の間に入るフィエロ役のジョナサン・ベイソーは、役柄の曖昧さもあり俳優の個性まで表現出来なかったように見えます。これは演出の問題でもあり、その他助演級の俳優の演技には観るべきものがありませんでした。ベテランのジェフ・ゴールドブラムが魔法使いオズを演じていますが、この人物はもっと面白く表現すべきキャラクターの美味しい役なのに勿体ない扱いでした。監督ジョン・M・チュウと撮影アリス・ブルックスは今回初めて接しましたが、基本に忠実で中庸を得たカメラワークを安心して見せてくれます。ミュージカルシーンに重点を置いた演出と撮影でした。
追記
今年は念願だった『レ・ミゼラブル/ワールドツアースペクタキュラー』を幸運にも舞台中央前で直に鑑賞し、得も言われぬ感動体験をしました。日本のミュージカル上演のレベルも勿論素晴らしいですが、やはり英語で聴く生迫力は別格でした。オペラがイタリア語で歌われるのが最良であるように、ミュージカルの歌唱には英語が最も適していると思います。そして、舞台にキャスティングされた俳優の手を抜かいな演技と歌唱力に圧倒されるのは、それだけ高レベルの競争から抜け出した逸材の集積であるということです。終演後、パンフレットにサインも頂けて、その俳優陣のサービス精神にも感銘を受けました。
