「ズレたリアリティが惜しい。しかしすごい爆発力」威風堂々 奨学金って言い方やめてもらっていいですか? かみさんの映画レビュー(感想・評価)
ズレたリアリティが惜しい。しかしすごい爆発力
こういうテーマをぜひ映画で取り上げて欲しいと思う。だからこそ、いろいろ現実認識がズレているのが惜しかった。
主人公は壁に「国公立合格」とかの張り紙をして受験勉強するようなタイプ。進学した大学では、パパ活で貯金する奨学生に衝撃を受ける。こういう平均的な価値観を持っているわりに、YouTuber志願の恋人と簡単に同棲を始めるなど、どういう子を想定して描いているのかよくわからない。「良い学校、良い就職」というレールに乗った人生と、破天荒な行動の両極端だ。
たとえば真面目に生きようとしているのに現実に裏切られて疲弊し転落していくか、逆にもともとネジの緩んだ愛すべきキャラクターなのか。そういう描き方をすれば主人公に共感できたと思う。
残り3人の大学生もYouTuber、パパ活女子、政治家志望などレールを外れた人ばかりで、大人が「若者の流行」を無理やり描いている感あり。しかし奨学金問題を描くなら、普通に学歴を必要としている学生の姿を描いたほうがいいのでは。現実には大学進学率が上がり、多くの人が学歴を必要としているのだから(つまり、それなりに合理的な評価システムだし、だからこそ進学費用を公的に負担すべきなのだ)。
しかし、何か「絶対訴えたいことがある」という信念が画面から伝わり、爆発力のある映画ではあった。とくに池田朱那さんは「17歳は止まらない」に続いて鬼気迫る演技。「ちょっと無理があるかな」という人物像に説得力を持たせてしまうところ、逆に演者としてのすごさを感じる。昭和のドラマから出てきたような少しキンキンした声、台詞の読み方が独特で魅力的。
大学進学をもう少し若者の視線で切実に伝える映画としては、「ぬけろ、メビウス!!」をお勧めしたい。