「半世紀に及ぶ非常に長い「青春時代」を過ごすハメになった桐島聡を描く 面白うてやがて哀しき「青春映画」」逃走 Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)
半世紀に及ぶ非常に長い「青春時代」を過ごすハメになった桐島聡を描く 面白うてやがて哀しき「青春映画」
人には大人になるために通ることとなる通過儀礼があります。成人式、卒業式、入社式等……話を通過儀礼的な何かにまで広げれば、就職やら恋愛やら結婚やら、それに伴う出会いやら別れやら、そんな様々な経験になります。それら経験を通して、人は大人への階段を登ってゆくわけです。さて、ここに、そういった大人になるための経験が大学入学以降ほとんどないまま死を迎えた人物がいます。1970年代に爆弾テロを実行した過激派のメンバーで全国指名手配され、半世紀に渡る逃亡生活の後、病死した桐島聡、その人です。この作品はその桐島の半生を追ったドラマです(事実に基づいていると思われますが、かなり脚色されている感もあります)。
物語は瀕死の床にある桐島とその回想シーンから始まります。若い頃の彼が同志たちと山で爆弾の実験とかして青春真っ只中という感じで登場します。たぶん、爆弾をあちこちで破裂させ、そのうちに自分たちを支持する民衆が蜂起して国会議事堂や首相官邸を取り囲み、革命が成就するといった、今なら中学生でも笑いそうな革命のシナリオを夢想していたのでしょう。彼はこの夢を抱えたまま年齢を重ねてゆきます。スーツを着ての就職活動もしませんし、大学も卒業しません。おそらく同年代の男子たちの多くが経験していたであろう、恋愛の悦びや失恋の痛みとも無縁であったことでしょう。
やがて同志たちは次々と逮捕され、桐島は革命への夢を抱えたまま孤独な逃走を続けるハメに陥り、孤独の中、生きること、逃げることの意味を自問自答することになります。この自問自答のパートがなかなか面白かったです。人として成熟してゆく機会を失ってしまった桐島ですので、少し青臭い哲学的な問答ですが、それをうまく見せているなあと感心しました。ただ、青臭いとは言いましたが、自分と真摯に向き合う桐島の姿はけっこう胸に迫るものがあります。バカ正直という言葉からの連想で造語しますが、桐島は「バカ純粋」で「バカ誠実」といった感じです。こういった要素が暗く重い内容を扱っているにもかかわらず、意外と明るく爽やかな鑑賞後感に繋がっているのかと思いました。成熟を拒否して革命を夢想し、永遠の青春を生きた男を描いた青春映画といったところでしょうか。ただし、青春映画によくある愛や友情といった要素は孤独な彼にはほぼ無縁でしたし、やがては大人への階段を登り始めるなどといった要素も彼には土台無理でした。また、身分を偽っての逃走なので健康保険に加入できるはずもなく、それがあの最期に繋がったということで罰を受けたとも言えましょう。哀しい青春映画と言えるかもしれません。
いずれにせよ、私には非常に面白い映画でした。素材がよかったのでしょうか。私、昨年、この桐島に関する一連のニュースを見聞きした際には「これ、映画化案件じゃないの?」と思っておりましたので、我が意を得たりという感じです。7月には毎熊克哉が桐島を演じる『「桐島です」』が公開されるとのことなので、高橋伴明監督がどんな桐島聡像を見せてくれるか、非常に楽しみです。