「人と人は“相身互い”。善いものを信じたい」アイミタガイ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
人と人は“相身互い”。善いものを信じたい
“アイミタガイ”。初めて聞く言葉。
造語ではなく、漢字で書くと、“相身互い”。
何か悪い事や辛い事など同じ境遇/立場の者同士が、同情し合い助け合う事。
持ちつ持たれつ。金八先生のあの名言のようだが、それ以上の縁深さ。
人と人は縁あって繋がり、誰かもしくは自分の存在は、必ず自分もしくは誰かに影響を与えている。
私の神映画の一つ『素晴らしき哉、人生!』に通じるものを感じる。
ウェディングプランナーの梓。
親友で写真家の叶海。
梓の恋人の澄人。
叶海の両親、優作と朋子。
梓の叔母でヘルパーの範子。
範子が担当する老女、こみち。
他にも細かく繋がる人たちはいるが、メインとなるのが以上の面々。
ある不幸をきっかけに、皆が繋がっていく…。
叶海が仕事で訪れていた海外で事故死した。
恋人の澄人と一緒にいるより叶海と一緒にいる時の方が満たされるくらい、欠けがえのない親友を突然失った梓の喪失感はあまりに大きい。
梓は日々の出来事、悩み事などのメッセージを叶海のスマホに送り続けていた。
叶海の両親の優作と朋子は亡き娘のスマホに送られてくるメッセージに気付いていた。
ある時児童擁護施設から連絡が。叶海が施設にお菓子など贈り物をしていた事を知る。
気難しい性格のこみちに手を焼いていた範子だが、こみちがピアノ奏者だった事を聞く。ちょうどその時梓は金婚式を任され、熟練のピアノ奏者を探していた。
依頼しに範子とこみちの家を訪ねた梓は思わず驚く。
ピアノ依頼はこみちが難色を示す。戦争時代、戦地に赴く若者たちをピアノで送り出した事を悔い、ピアノから遠ざかっていた。
唯一、ある時間帯だけ。夕方、町内に流れるメロディー。それに併せてピアノを。奇しくもそのメロディーが若者たちを戦地に送った時と同じ曲。こみちなりの罪滅ぼし。
私にピアノを弾く資格は無い。しかし、こみちのピアノに癒されていた者たちがいた。
中学生時代の梓と叶海。当時いじめられていた梓を助けたのが叶海。梓を連れてお気に入りの場所へ。そこがこみちの家の裏の空き地。夕方のメロディーの中に聞こえるピアノの音色は二人のお気に入りとなり、友情も深まった。
その事を伝える梓。それを聞いてこみちは…。
人は失ってからその大切さに気付く。
梓や両親にとっては生前から叶の存在は特別だったが、居なくなってさらに改めて知る。
親友に/娘にどれほど支えられていたか。
人は時に自分の行いを悔やむ。
しかし一方で、それが知らず知らずの内に誰かの支えになっていたら…?
“相身互い”が広がっていく。
これらのエピソードが良くて、当初澄人の印象が薄かった。
優しい性格なんだろうけど、いつもいつも空回り。頼りなさげでもあって、梓からは“タイミングが悪い”。
両親の離婚を経験している梓はウェディングプランナーでありながら結婚には及び腰。それを知りつつも、澄人は結婚を考える。有名宝飾店に赴いて指輪を見せて貰ったり…。
親友を失って心沈む梓、空回り続く澄人、最近関係がぎこちない。ある時祖母宅に行く梓に強引に付いていく澄人。
そこで祖母からの頼まれ事やお手伝い、博識などを見せて、なかなか頼れる面を示した澄人。梓も見方が変わる。
帰り道、澄人が通勤電車で起きた可笑しな話。いつも同じ車両になる乗客がいる。話した事はないが、いつも同じなので降りる駅も知っている。ある時その乗客が居眠りを。降り過ごしてしまう。澄人はアクシデントを装って起こし、気付かせる。以来何だかバツが悪くなって違う車両に乗る事にしたが…。
この男性、ひょっとして…。後々、予想は当たった。
冴えないが、好青年度100%の澄人。彼や彼のエピソードも好きになった。
澄人と電車の男性のエピソードはサブ。
本作はサブのエピソードも効いている。他にも、
児童擁護施設を訪ねる優作と朋子。タクシーに乗り、その運転手が“車屋”というユニークな名字である事に気付いた優作。
その車屋さん曰く、前にも気付いてくれたお客さんがいた。奇しくも同じく児童擁護施設に向かうお客さん。明るい性格で、職業は写真家と言っていた若い女性。次乗せた時も気付いてくれた。
娘もここに居たんだ…。
娘の存在は児童擁護施設にも。
トイレに娘の写真がたくさん飾られている。
トイレは誰しもリラックスし、心も身体も解放出来る場所。
そんな時に写真を見てほしい。叶海の茶目っ気もたっぷり。
両親からすれば、娘の思いや存在をまじまじと。
だから迷いは無かった。娘の保険金は施設へ。本来自分たちが手にする事の無かったお金。娘が生きていればお菓子を送り続けていただろうし、その代金や子供たちの為に。
その帰り道、優作と朋子は梓と出会う。
面識は無かったが、思わぬきっかけで。…いや、叶海が引き合わせてくれたに違いない。
二人は梓が送ってくれていたメッセージに支えられ、梓は送っていたメッセージから結婚の悩みを二人からアドバイス。相身互い。
ある日の梓と叶海のランチ代賭けや澄人が起こした男性(←やはり!)も。
何と温かい素敵な縁。
黒木華の絶対的安心安定の好演。
中村蒼、安藤玉恵、近藤華、白鳥玉季、西田尚美、田口トモロヲ、風吹ジュン、草笛光子らの織り成すアンサンブル。
中でも出番は少ないが、叶海役・藤間爽子の太陽の如く輝きは印象残す。
優作と朋子の背中押し(行っちゃえ!)もあって、梓は澄人からのプロポーズを受け入れる。
早速、澄人は梓を連れて宝飾店へ。が、休み。そこへ、店主が。孫にせがまれて急遽。出席した金婚式で素敵なピアノを聞いた…。
ラストに至るまで。繋がる人と人の縁。
悪い人一人も出てこないファンタジー。さすがにここまで来ると出来すぎやご都合主義と思うかもしれないが、
優作の台詞。善いものを信じたい。
あなたにも私にも起こり得る事を信じ、願う“相身互い”。
ようやく宝石店へ行ける状況になったのに、閉まってるんかい! からの落としが、ラストを綺麗に締めてましたよね。
あらためてもう一度思い出させてくれたあらすじ、ホントにありがとうございました。いやあ、いい映画だったなあ。小さな町の話。