「小さな勇気や優しさが誰かの背中を押す」アイミタガイ rieさんの映画レビュー(感想・評価)
小さな勇気や優しさが誰かの背中を押す
親友を亡くした主人公が、前に進めるようになるまでの物語。登場人物それぞれの優しさや思いやりが、意外なところで繋がり、誰かの背中を押していく。
親友の死から始まり、喪失感を抱えながらも日常を送る主人公は、作中で自ら大きな行動を起こすわけではない。心の整理がついていないのだから仕方ない。
代わりにキーマンとなるのが主人公の彼氏。ひとの良さの権化のような彼は、頼りないし空気が読めないし運が悪い、ようでいて、実は彼の優しさと勇気によるちょっとした行動が、巡り巡って主人公や彼女を取り巻く人々の大きな救いになっていく。そしてそれは一周回って彼の望みを叶えることにも繋がっていく。
ちょっと綺麗にできすぎていると言えばそうなのだけれど、作品の舞台が東京ではなく地方都市であることも、そういうおおらかなことがあってもいいよね、と感じさせる。景色もどこかノスタルジックで美しい。
そして物語の終盤で親友の父親が言う、登場人物の皆が優しいひとである物語はない、でも今はそれを信じたい、といった台詞。それはまさにこの作品が綺麗すぎることを認めつつも、そんな美しくて優しい世界が現実にあるかもしれない、その可能性をまるごと肯定したい、という祈りでもあるように感じた。
ただ、どうしても気になったのが、親友が写真を許可なしで街中で人を撮っていたこと。もちろん、そんな野暮なことで文句を言うつもりはないのだけれど、現実だと問題になるだろうな、などと考えてしまい、少しノイズになった気もする。そんなことも問題にならない優しい世界、と考えるべきなのかもしれないけれど。
(今の時代に作品を作ることの難しさですね…)
総論、疲れているひとにおすすめしたい、最初から最後まで嫌なひとがほぼ出てこない、優しい作品。自然と涙が流れるシーンがたくさんあって、やわらかな気持ちで映画館を後にすることができた。